失業者増加で量的緩和再開シナリオ

コロナパンデミック以降、大規模な量的緩和とゼロ金利政策、さらに潤沢な失業給付金や一律給付金によって金余り現象が起こり、そのマネーが株式市場のみならず、暗号資産やコモディティ市場にまで流入することになった。

2020年に投資をしていた人は、その恩恵を受ける形で大きな利益が得られたはず。

筆者も数百万円の利益を稼ぐことができ、また暗号資産へ投資していた人の中には億り人に上り詰めた例も多いだろう。

しかし、コロナ禍で事業活動が制限されたことによる供給不足、一律給付金による国民所得の一時的な底上げ、さらにロシアのウクライナ侵攻によって、2021年はインフレが深刻化し始めた。

世界中でインフレが問題になってきたことで、これを阻止するために2022年は政策転換を余儀なくされている。

政策金利の引き上げ、量的引き締めの開始、給付金の打ち切りと、これまでの流れとは正反対になったことで、やはり株式市場や暗号資産市場は下落相場入りしている。

米国株式(S&P500)の価格は以下のように推移している。

最高値から25%以上下落してきており、2022年初に株式市場に参入してきた素人は悲鳴を上げていることだろう。

さらに深刻なのが暗号資産である。

ビットコインは最高値から80%近くも下落し、高値で購入した人の資産価値は現在4分の1まで減っている計算になる。

また、暗号資産業界は世界的に有名なFTXと呼ばれる取引所が経営破綻した影響で、個人投資家からFTXに出資していた企業やファンドまで幅広い層が損失を出している。

筆者は特に被害も損失も出ていないが、今回のFTX事件にはかなりのインパクトを受けている。

BTCやETHを海外の取引所に保管していた為、一旦全て日本国内の取引所に避難させている。

事態が落ち着くまでは、自身の暗号資産は国内取引所またはウォレットに保管させておいたほうがいいだろう。

さて、株価も暗号資産も大きな下落調整をしたことで、市場の注目ポイントとしては、そろそろ底打ちフェーズに入ってきたかどうかである。

これを考えるうえでキーとなるのが、やはりインフレの推移だろう。

10月分のCPIが発表されたので確認してみよう。

結果は、市場予想を下回る7.8%と発表されたことを受け、12月FOMCの利上げ予測は0.5%もしくは0.25%との見方が強まる格好となった。

このCPI発表を受けて、米国債2年物利回りは、4.9%からやや下落している。

とはいえ、いまだ4%を大きく上回る水準を維持しており、インフレが完全に収束する兆しが見えない限りは、利上げが中断されそうにないので、まだ短期金利は上昇する余地が残されているだろう。

そして注目すべきは米国債10年物利回りである。

こちらは比較的大きく下落しており、4%を下回っている。

これにより明確な逆イールド現象となっており、やはり債券市場は長期的には金利が低下する、つまり米国経済が景気後退に入ることで、政府が金利を引き下げざるを得ない状態になることを見透かしているのである。

筆者もこの考えに同意で、短期金利の急激な引き上げによって、企業の財務は痛み、さらにFTXなどの借金体質の企業は資金繰りに行き詰るとみている。

また、インフレは短期で見れば下落圧力が強まっているのは確かで、このまま5%~6%付近まで順調に下がってきても不思議ではないと考えているが、そのまま2%以下まで下がりきってくれるのかと言われれば、そこは疑念の余地がある。

なぜなら、賃金インフレは依然として高止まり、ロシア軍事侵攻のさらなる激化リスク、中台戦争懸念から世界各国の企業が中国から工場を撤退させる動きを見せているなど。

それに、物価が落ち着いてくると、人々は価格が安いうちに買い占めておこうという考えに及ぶ可能性もあり、インフレがきれいに下がり続けてくれるかは微妙である。

どちらかというと、株価が下落する時と似たような動き、アップダウンを何度も繰り返しながらジリ下げするイメージをしている。

それと、FRBは最終的に物価は2%付近まで下げたいと考えているようだが、物価が仮に2%台まで下がったとしよう。

その場合、その2%台で物価下落が止まる保証はどこにあるのだろうか。

下手に途中で金融政策を緩和に舵を切ってしまうと、また物価が上昇反発することになりかねないので、恐らくFRBは金融引き締め政策を強行するのだろう。

FRBのパウエル議長の悪い癖の一つが、市場が警鐘を鳴らしているにも関わらず、自らの方針を頑なに変えようとしないところである。

つまり、やると決めた事はその方針で突き進んでいくため、間違っていたとしても誤りを修正するのが遅かったり、もうやる必要がないのにやりすぎてしまうケースが多々ある。

コロナ禍で物価上昇は一時的と言い続けていたが、結局物価は9%にまで到達しており、米国民の生活困窮者には大打撃を与える結果となった。

そのインフレを退治するために、かつてないスピードで断続的に利上げを強行したことで、歴史的なドル高が進み、これは途上国の経済を破滅へと追いやってしまった。

事実、ベトナム経済は混乱を極め、銀行の取り付け騒ぎなどが起こったと報道されている。

ちなみに、ベトナム株は以下のように推移している。

米国株とは比較にならないほど真っ逆さまに下落しており、コロナの安値付近に近づいている。

さて、世界中に大きな迷惑を与えている米国の金融当局だが、しばらくの間はインフレ退治を理由に利上げと引き締め政策は継続すると思われる。

しかし、これまでの記事でも解説してきた通り、インフレが下がるということは、皆が消費活動をしなくなる訳で、これは企業の業績には大きなマイナス要因となる。

直近では、Amazonで1万人を超える従業員のリストラを発表したり、イーロンマスクが買収したTwitter従業員のうち半数をリストラすると公言している。

アマゾンは1万人「大量解雇」――IT企業で相次ぐ人員削減 ジェフ・ベゾス「景気後退がすぐやってくる」…コロナで収益増も転換

また、メタバース事業に全力シフトしたMETAも大幅な人員削減をしており、米国経済を牽引してきたGAFAが景気後退に対して強く懸念を示している点は、我々日本人にとっても他人事とは言えない。

このように、FRBが継続している利上げと金融引き締め政策は、将来の経済成長の足かせとなり、景気後退と失業者の増加を招くのは確実だ。

そして失業者が街に溢れ、政治家に対する不満やデモ運動が活発になると、これは大統領の支持率にも深刻な悪影響を与える為、FRBに対して政策転換をするよう圧力をかけるだろう。

その時点で、インフレが2%以下に下がりきっていなくても、FRBは圧力に負けて緩和政策へ転換する可能性は十分にある。

となると、コロナ禍でおこなった事と同じ、失業者への手厚い失業給付金や低金利政策に、大規模な量的緩和政策を打ち出すはずである。

これにより、インフレ第2波へと突入していき、もはやFRBはインフレを制御することが非常に困難な状態へと陥っていく。

インフレとは物価の上昇であり、物価の上昇とは法定通貨の価値が物に対して下落している状態である。

つまり、米ドルの価値は今後も下がる未来しかなく、それは米ドルだけに留まらないだろう。

日本円でもユーロでも、物価上昇に悩まされる国の法定通貨は全て価値を下げていく。

この法定通貨暴落シナリオに備えなければ、我々がこれまで必死に働いて稼いだお金の価値は急速に薄まっていくことになり、何もしなければ物価上昇の被害を受けるため、当然生活は貧しくなる。

この最悪シナリオに備えるために有効なのが、法定通貨からGoldに資金を逃がしておくことである。

以下は、Gold価格のチャートである。

1970年代以降から、Gold価格は長期的に右肩上がりを維持してきた。

直近では米金利上昇の影響で、金利を生まないGoldが売られている背景はあるものの、冒頭で説明した通り一旦インフレは下落傾向に入った為、これ以上の急激な利上げは収まりつつある。

そして、インフレが短期的に収まる(景気後退に入る)ことで、ゼロ金利政策・量的緩和の再開で、Gold価格は再び最高値を大きく更新していくだろう。

筆者は既にGoldのETFを大量に買い仕込んでおり、Goldを発掘する金鉱株についても購入している。

そして個人的に悩んでいるのが、暗号資産の買い場である。

コロナ禍では、暗号資産の値上がり率が株式やGoldを遥かに超越しており、この恩恵を筆者も受けている。

ただし、現在はFTX関連のネガティブニュースを受けて、2018年バブル期の高値を割り込み、一時は$15000台にまで落ちてきており、さらに下値を試しそうな雰囲気である。

正直、暗号資産そのものに大きな価値を感じている訳ではないが、投機的な側面として、インフレ第2波におけるBTC現物買いは、そこまで悪くない選択肢だと考えている。

この考えは賛否両論あると思うので、読者にお勧めするつもりはないが、インフレ禍における値上がり期待銘柄として、BTCが候補に挙げられるということは意識しておいてほしい。

さてと、何度も言うが、これからは長期的なインフレが市場のトレンドとなってくると筆者は予測しているので、大して金利の付かない銀行に全額預金している人は、ますます貧乏になっていくだろう。

Bridgewaterの創設者 レイ・ダリオ氏は、以前からポートフォリオの一部にGoldを組み込んでおくべきだと発言していたが、まさにその通りであると筆者も同感だ。

それにしても、最近の米国は経済的にも政治的にも失態を演じすぎではないだろうか?

20年も続いたアフガニスタン紛争からの撤退、ロシアの軍事侵攻を阻止できなかった痛恨のミス。

次に犯すミスは一体何だろうか。

筆者は、台湾有事が現実のものになりそうで気が気でない。

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