インフレは年末まで続く

2022年初は、量的引き締め・利上げの懸念によってリスク資産が大幅に売られる下落相場からスタートした。

S&P500は最高値から20%を超える値下がりとなり、暗号資産に至っては70%~90%もの急落を見せている。

コロナショック以降から続いた上昇トレンド相場は終わりを告げ、途中から参加した素人投資家は大きな損失を出した人もいるだろう。

いつまでも上がり続けるように見える相場も、必ず転換点が訪れるものであり、今回の急落相場は初心者にはよい教訓になっただろう。

さて、今回の下落トレンドが起きることは、去年から予想されていたものであるが、直近では大きな上昇反発を見せている事もあってか、市場では上昇トレンドに転換したとの見方も増えてきている。

下図は、S&P500のチャートである。


6月につけた直近安値から20%近い上昇率となっているのが分かる。

暗号資産のビットコインやイーサリアムなども、株価上昇につられる形で短期的には上昇を見せている。


重要サポートラインの$20000を一時は割ったものの、何とか持ち直し$21000~$23000をキープしている状況。

株価と比べると暗号資産はやはりボラティリティが激しく、安定感に乏しい値動きとなっているものの、とりあえず下げ相場は一旦止まっているように見える。

現時点の相場について軽くチェックしたが、問題は本当にここが底値なのかどうかだろう。

一般的に、歴史を振り返ると大きな下落相場は途中で反発を何度も繰り返しながら、結果的にズルズル値下がりし続ける動きが1~2年程度は続いている印象を受ける。

リーマンショック時でも、2007年10月近辺~2009年4月までと、約1年半におよぶ下落相場となっている。


上記を見ると、やはり下落トレンドの間に何度も上昇トレンド転換を疑わせるような反発が起こっており、当時の市場参加者はこの値動きに悩まされた人も多いはずだ。

現在の相場が上記の画像でいうとどのポイントに位置しているのだろうか?


すでに最高値から24%と、それなりに下落しており、半年以上も下落相場ば続いてきたことも考慮すれば、リーマンショック時の黄色い丸のマークまであたりまで落ちてきている可能性はあるのではないだろうか。

しかし、投資において底値を正確に予測するのは至難の業であり、今は緑色のマークにいるかもしれないし、もう既に赤色マークの底値を付けた後かもしれない。

あるいは黄色のマークすらつけておらず、下落相場はまだまだこれからが本番なのかもしれない。

読者のみなさんは、現在の相場がどのポイントに位置していると考えているだろうか?

私自身、株や暗号資産の買い仕込み時を見極める為、上記の疑問について考え続けてきた。

結論から言うと、筆者の見立てでは未だ下落相場は継続中であり、現在の相場は黄色いマーク近辺だと予想している。

つまり、現在の上昇反発は短命に終わり、まだ下落の余地は残されていると考えている。

その理由は、インフレ率が本来の期待値である2%まで急落してくれるとは考えにくい事と、企業業績が悪化し始めると予測していることが主な要因である。

まず、インフレ率について考えていこう。

コロナショックという世界経済に甚大な被害を与えるパンデミックが発生したにも関わらず、ここまで株価バブルが起こったそもそもの理由は、量的緩和・利下げ・無尽蔵の給付金が原因である。

このような政策がなければ、本来であれば株価はリーマンショック以上の下落となり、急反発することもなかっただろう。

そして2022年初から株価が下落した理由は、至ってシンプルである。

株価が上昇した理由の正反対のことが起こっているからである。

読者もご存じの通り、量的引き締め・利上げ・給付金の打ち止めである。

無理やり株式市場を買い支える要因が無くなったことで、これ以上の値上がりは見込めないと判断した賢明な投資家が我先にとリスク資産を投げ売りした訳である。

この状況が続くなら、株価は下落の一途を辿っていくはずだが、それならなぜ直近の相場は大きな上昇反発を見せているのだろう?

これには、米国の長期金利が影響しているので、US10Yのチャートを見てみよう。


FOMCでは0.75%と非常に高い金利引き上げを強行し、インフレ抑止に力を入れていくアピールをしたことで、6月半ばでは3.5%まで到達している。

しかし、そこを高値にじりじりと下がり続け2.6%まで金利が下がっている。

長期金利が大きく下がるという事は、市場参加者はFOMCが急激な利上げに踏み切らない、あるいは利下げに転じる可能性を織り込み始めた事を示している。

これはどういう事だろうか?

FOMCが利上げに踏み切った理由は、現在のインフレ率が8%超えと非常に高水準に位置しており、これ以上インフレが進行しないように抑え込みたい狙いがあるからだ。

しかし、FOMCは「インフレはあくまでも一時的なもの」という自身の思惑とは裏腹に、想定以上の伸び率を見せた事で、0.75%と急激な引き上げを実施せざるを得なくなった。

ここで問題なのが、急激な利上げは実体経済に大きな負荷を与える点である。

政策金利は経済のあらゆる面で大きな影響を与え、住宅ローン・自動車ローン・奨学金ローンなどの個人の購買意欲を低下させるだけでなく、企業が新たにビジネスを開拓したり工場建設などの設備投資においても、資金を借りる際の高金利によって断念せざるを得なくなるケースが増えていくだろう。

金利が高くなることで、個人の消費意欲が大きく落ち込み、企業は前もってそれを察知し生産を控える動きが広がる事で、余剰の人員のリストラを検討するなど、今後の経済活動が縮小してしまうのである。

つまり、景気後退が訪れるのだ。

当然、経済が悪化すれば政治家への不満が高まることから米国大統領はFRBに金利引き下げへと舵を切るように方針転換を迫るようになるだろう。

これが、今まさに起こっている長期金利下落の要因である。

インフレを抑えるために焦って利上げをしたが故に、景気後退を引き起こしかねない状況を作り上げてしまっているのだ。

一般的に、株価と金利は反相関関係であり、金利の低下は株価上昇圧力を生みやすい。

これは金利の低い国債よりも株価を持っておきたいという理由や、金利低下は消費意欲の増加が見込まれることで企業業績が高まるという意味で、株が買われやすいという理由である。

ここまでの話で、直近の株価がなぜ上昇反発を見せているのかは、何となく理解してもらえたと思う。

さて、ここでようやく本題に入るが、金利の引き上げによってインフレはピークアウトを迎えたのだろうか?

2022年6月の米国CPIは9.1%、そして7月のCPIは8.5%と発表されている。


ついに9%の水準にまで到達し、このまま10%を超える流れになるかと思われたが、7月のCPIは8.5%と予想を下回る結果となった。

個人的には、年末あたりまでインフレは進行し続けると考えていたので、この結果はやや意外に感じている。

日本でも物価上昇の勢いは止まらず、ウクライナ情勢の影響も受ける形でヨーロッパでもインフレは止まる気配を見せていない。

米国でインフレ上昇がストップした理由は一体何だろうか?

それは先程も説明した通り、金利引き上げによる景気後退を予想した企業側が生産活動縮小の動きを見せている事が一つ要因と思われる。

これまで上昇一辺倒だった原油先物価格が、6月を起点に大きく値下がりし始めているのが証拠である。


特に中国は、ゼロコロナ政策に以上に執着した影響で、人が多い都市部での経済活動が制限されたり、不動産バブルの崩壊も相まってエネルギー需要が低迷してきている。

それがより顕著に表れているのが銅である。


銅は、世界の消費量の50%は中国が占めており、主な使用用途は建築関連である。

そんな銅最大消費国である中国が、経済低迷と不動産バブル崩壊に陥っている状況である為、銅の需要が低下するのは当然の結果と言えるだろう。

このように景気後退が米中を筆頭に迫りつつある事が、エネルギー需要をすり減らしており、このことがインフレ率鈍化を招いたのである。

下図は、エネルギー価格の変動率を前年同月比で示したグラフである。


やはり、上がり続けたトレンドも6月を境にエネルギー価格が落ち着き始めたのが確認できる。

次に、住宅価格について見ていこう。

米国の住宅バブルは凄まじく、いくら金利が引き上げられたといっても、それ以上にインフレが加速している状況下では、2~3%の金利を支払ってでも、購入した住宅の価値が8%以上値上がりするのだから、買えば儲かる摩訶不思議なバブル相場であった。

このままインフレが続くのであれば、住宅価格はさらなる上昇が見込まれるので、今のうちに住宅を購入しておこうという動きが続くと考えるのが一般的だろう。

逆に、インフレが落ち着きを取り戻し、住宅価格の上昇もストップするなら、住宅バブルも終焉を迎えるはずである。

そしてインフレが落ち着き始めた今、住宅価格がどうなったかと言うと、こちらは未だに上昇を続けているようだ。


金利の上昇が住宅市場に反映されるには半年以上のラグが存在するとも言われているので、家賃が下がり始めるとすれば年明け以降になるのだろうか。

とすれば、やはり来年の年明けはインフレ率は今よりも低下していく事が想定される。

そして、住宅市場に反映され始めるまでの間、おそらく年末まではインフレが急落するイメージはしづらいと考えられる。

とはいえ、インフレ率は近いうちにピークを迎える可能性は高く、インフレが落ち着き急速な利上げの必要性が低下するのであれば、そのポイントが株価の底値付近になってくるだろう。

インフレが落ち着くという事は、需要が落ちることを意味し、企業の業績が下がり従業員の給料も下がっていく。

こうして訪れる景気後退に対応するには、やはり量的緩和・利下げ・失業給付金を再開するしかない。

これこそが、以前から何度も伝えていたインフレ第2波であり、これは現在のインフレ率よりも遥かに深刻なものになる恐れがある。

ここで難しいのが、景気後退に対応するために利下げをすると強烈なインフレを招き、インフレを抑止するために利上げをすると米国の経済はボロボロになってしまう点である。

どちらを優先しても悲惨な結果は免れず、米国は既に詰んでいるとしか言えない。

しかし、これは逆に資産を増やすチャンスではないだろうか?

米国経済が悪化するにせよ、驚異的なインフレに悩まされるにせよ、米ドルの信用度は低下し続けるシナリオが濃厚であり、米ドルを空売り(ショート)しておく事で、莫大な利益を手にできる可能性がある。

        米ドルの将来的な展望については、下記の記事で解説しているので参考にしてもらいたい。

米ドルの価値は危うい? の解説記事へ遷移

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