戦争長期化でインフレが今後のテーマに

  • 2022年4月26日
  • 2022年4月26日
  • 軍事

ウクライナ侵攻が始まってから2カ月が過ぎようとしている。

非常に凄惨な映像がニュースで流れ、ウクライナから遠く離れている日本人も、戦争の恐ろしさを再認識できたのではないだろうか?

ロシアによる軍事侵攻の可能性については、1月末時点で記事を作成していたので、そちらも目を通しておいてもらいたい。

ロシア軍によるウクライナ軍事侵攻 の記事はこちらから

私自身、ウクライナへの軍事侵攻の可能性はそれなりに高いと警戒していたが、軍事力については雲泥の差がある為、ロシア側が圧勝すると予測していた。

しかし、想定していた以上の粘り強さを見せるウクライナ軍に、私も含め世界中が驚きを隠せないと同時に、徹底抗戦を続ける限り、この戦争が長期化する事への懸念も高まってきている。

西側諸国からの手厚い支援を受けるウクライナ軍は、かつて中ソから軍事支援を受けていた北ベトナム軍のように、市民を巻き込んだゲリラ戦を展開し、侵略軍を手こずらすだろう。

ロシアとしても、1万人以上の戦死者を出しておきながら、手ぶらで帰る事など到底出来ないだろう。

そんな事をすれば、プーチン大統領としては国民からの失望と反感を買う事になり、現政権の崩壊にも繋がりかねない。

この戦争がどのような着地点を迎える事になるのか、今の段階では全く検討が付かないが、専門家の間ではこの戦争が数年以上続くシナリオについて言及し始めており、日本を含めた世界中の経済にも長期的な混乱状態に陥る可能性がある。

と言うのも、米国をはじめとする世界各国において、インフレ(物価上昇)が収まる気配がない。

3月の米国のCPIが発表されたが、前年同月比8.5%と、2月のCPI 7.9%からさらに続伸している状況。

米国ほどではないが、日本国内でも小麦やガソリン価格が値上げラッシュとなっており、それに応じてコンビニやスーパーでの販売価格も引き上げられている。

その主な理由の一つに、今起こっているウクライナ侵攻が挙げられる。

ロシアとウクライナは穀物輸出国であり、欧州へ食料を供給する役割を担っていたのだが、ニュースを見ての通り、ロシア軍によるミサイル攻撃を受けているウクライナは、農作業を継続する余裕などなく、女性と子供は他国へ避難し、成人男性は政府軍に加わり戦っている状況だ。

ロシア本土は、特に損害を受けた報道はなく、農業生産能力は特に低下していないと思われるが、軍事侵攻について世界中から批判され、国際法を破った懲罰として経済制裁を受けている。

経済制裁として、ロシアからの輸入を可能な限り控える動きが活発化している。

これにより、ロシアは自国の物を売って外貨を稼ぐ手段が制限される為、戦争を継続する為の戦費の調達が困難になるという理屈である。

ロシアが想定していた以上に、世界中が結束して制裁を発動した事もあってか、ロシアが当初用意していたとされる戦費70兆円は既に半分まで減ってしまったとの見方も一部の報道で出ている。

また、ロシア経済の規模は、大国と呼ばれる割にはブラジルや韓国以下と分析されており、自国内で戦費を全て調達できるほど豊かではない。

もう一つ金融制裁として、ロシアの主要銀行をSWIFTネットワークから排除する動きも進んでおり、他国間との貿易決済が不可能になったり、ロシア国会議員や富裕層の預金口座(スイス銀行)が1兆円相当が強制的に凍結された。

マクドナルドやスターバックスなどの有名企業もロシアから撤退・一時休業を決めたり、ロシア経済は深刻な打撃を受けており、その弊害はやはりロシア国民に向いていく事だろう。

世界各国が連携し、適切に制裁を与えることでロシアの戦争継続能力を低下させる効果は出てきている一方で、その返り血として我々はインフレという課題に直面しているのである。

先ほども言った通り、ロシアとウクライナは穀物輸出国として知られており、その2カ国が本気で戦争をしている状況である。

これまで、この2カ国からの食料輸入に頼ってきた国々にとっては、自国民に十分な食料を提供できない恐れが出てきている。

それと忘れてはいけないのが、ロシアは世界最大の肥料輸出国であるという事だ。

窒素肥料・リン酸肥料・カリ肥料、いずれにもロシアが世界1位の輸出国であり、他国はロシアから肥料を買い取り、農業を行ってきた背景がある。

しかし、ここにきてロシアは制裁への報復として、非友好国への肥料輸出を制限すると発表した。

日本は主に中国とカナダから肥料を購入しており、全体に占めるロシアへの依存度は数%程度と低く、それほど影響はない。

とはいえ、頼みの中国は13億人もの人口を抱えており、それだけ多くの国民を食わせ続けるのは容易な事ではないだろう。

実際、ウクライナからの食料輸入がストップしたり、コロナ対策のロックダウンにより農業生産活動が低下したり、水害により田畑が損害を受けたり、米国が肥料と水不足によって食糧輸出が減少し始めたりなどなど。

中国としても食料の安定供給には、かなり神経を尖らせており、肥料や食料を他国に輸出している余裕がなくなれば、いずれは日本も中国からの供給が閉ざされる事にもなりかねない。

歴史を振り返ってみても、食糧危機はその国の政権崩壊や革命を引き起こした要因であった事は多い。

事態が深刻化するほど、暴動は狂気的なまでに発展していき、やがて食料、資源、土地を巡っての殺し合いが始まるのだろう。

事実、ウクライナ・ロシアからの食料輸入がストップした影響もあるのか、中東のほうで紛争が増え始めている。

今はウクライナ問題に世界中の注目が集まっているので、他のニュースは見逃されがちだが、米軍が撤退したアフガニスタンの経済状況は、正直に言って地獄絵図そのものである。

コロナ禍、そしてウクライナ支援を優先する動きもあってか、アフガニスタンの貧困層への支援は十分に行き届いておらず、生活の為に自分の子どもを身売りさせるケースが相次いで報道されている。

また、タリバンの一部のメンバーが、高額報酬に惹かれてイスラム過激派組織に亡命する動きも確認されており、そのメンバーが実戦経験を積む為に、ウクライナを救う外国人傭兵という建前で戦地に潜伏しているとの情報もあるようだ。

どこまで信憑性のある話なのかは分からないが、これが本当であれば、世界各国に存在すると思われる危険なテロ組織が、ウクライナでの戦地で実戦経験を積んで戦闘能力を高めていき、いずれテロ攻撃という形で世界に強い恐怖を与える可能性についても考慮しておかなければならない。

イスラム過激派組織は、米軍やイラク軍などの掃討作戦によって、全盛期(3万3000人)の頃と比較するとかなり弱体化したものの、実はコロナ禍で残党勢力が再び力を取り戻しつつある。(現在は、1万人弱の戦闘員がいると推定されている)

その要因として考えられるのは、コロナパンデミックにより政府が国民の外出自粛を制限・監視する為に兵士を都市部に配置した事で、IS(イスラム国)が潜伏してると思われる山間部の防衛が手薄になった事。

また、コロナによる死亡者が急増したことで、各国政府はコロナ対応に追われ、過激派掃討への優先度が低下した事も関係しているだろう。

ISは正式に国と認められておらず、違法薬物売買、兵器の密輸、サイバー攻撃、金品の強奪など、普通の国家から見ればありえない犯罪に平気で手を染め、あらゆる手段を尽くして軍資金を稼ごうとする。

通常の国家は国民からお金を税金という形で徴収するが、それを全て軍隊に費やす事はできず、社会保障といった形で国民に還元するのが基本である。

そうでなければ、国民は徴税に不満を抱くだろうし、国内の治安も安定しなくなる。

そもそも、国が徴税できる金額は、その国の経済規模に比例する為、経済成長率が低い国は税金も大して集まらず、軍事に回す資金も乏しくなり、結果的に軍事力が低いままとなる。

中東やアフリカなどは、欧州などの先進国と比べてみても豊かとは言えないので、徴税金額が少なく、軍事力も高い国はそれほど多くない。

そこで、コロナウィルスが貧困国を悩ませた。

ただでさえ、そこまで裕福でなかった国は、外出自粛などで経済活動が停滞し、国の税収は大幅に減少してしまった。

それどころか、失業者や企業の資金繰りを支援する為に、国がお金を支給するといった出費がかさんだことで、財政赤字に陥ったケースも少なくない。

つまり、国家が軍事に費やせるお金は限られており、経済規模が縮小するにつれて、軍事力も低下するという相関関係がある訳だ。

その観点で考えると、ロシア経済は大国というには相応しくない規模まで縮小しており、これがロシア軍の通常兵器や主力部隊の脆さを露呈している理由なのだろう。

一方で米国は、米ソ冷戦時代以降も世界の覇権を維持しながら、経済規模も世界トップである。

それに加え、米国の法定通貨である米ドルは基軸通貨であり、言ってしまえば大量に紙幣を印刷(国債で借金)しても、ある程度は問題なく返済するだけの財力を持っているので、軍事力に関しても世界トップなのである。

ここでイスラム過激派組織の財政について振り返りるが、ISの収入源は主に麻薬取引や密売、強奪などといった犯罪行為が大半である。

こうして不正に得た資金は膨大で、特に麻薬取引などは地域によっては高値で取引されている為、莫大な利益を生んでいる事が推定されている。

特筆すべき点は、ISは明確に国という線引きがなく、ISの国民という概念もない事である。

先ほど、国家は税金を何らかの形で国民に還元するのが基本であると話したが、ISに明確な国が存在しない以上、明確な国民も存在しない。

つまり、不正に得たお金は、言ってしまえば全額を軍事に費やすことが可能なのである。

ここが、世界最強の軍事力を有する米国と違う点で、手にした資金を好きなだけ軍備増強に費やされると、ISの戦闘能力を高めてしまうだけでなく、高額報酬を提示された別のテロリストが亡命してくる動きも活発化するだろう。

実際、米軍のアフガン撤退以降、タリバン政権下のアフガニスタンは財政破綻寸前まで追い込まれており、給料が大幅に減少した事に嫌気をさした一部のタリバン戦闘員が、ISに亡命していると報道された。

かつて世界を恐怖に陥れ、日本人ジャーナリストをも殺害した狂気的なテロ組織が、今再び力を取り戻そうとしている事実を、我々は注視しておかなければならないだろう。

深刻な問題は、ウクライナ侵攻とコロナパンデミックだけではない。

世界を見渡してみると、我々日本人が知らないだけで、多くの場所で紛争が激化していたり、弱者の人権が脅かされている。

それは、過去の揉め事が原因かもしれないし、文化的、あるいは宗教的な対立が原因かもしれない。

しかし、歴史的に見てもやはり食料危機が起こった時期は、紛争が頻発するケースが多かったのも事実。

食べる物、飲み水が当たり前のように手に入る日本人からすれば食糧危機など想像つかないかもしれないが、貧困な国々ではその影響を最初に受けやすいものである。

考えても見てほしい。ある日突然、いつも輸入できていた食料が届かなくなったらどうなるか、いつも流れてくる綺麗な水が全く流れてこなくなったら。

人は弱い生き物で、1週間全く水を飲まないと簡単に死んでしまう。

餓死するまでには僅かではあるが猶予があり、その間に自分とわが子を延命させる為に、あらゆる手段を尽くす事だろう。

例えそれが、他者の命を奪う事になってもだ。

ウクライナ侵攻によって食料不足が深刻化している事は何度も説明したが、水不足もかなり深刻化しているので、こちらも覚えておきたいテーマである。

日本は島国であり、河川も多く水は比較的手に入りやすい環境なので、かなり安く水を購入する事が可能となっているが、世界的に見てもこれは珍しいほうだ。

面積の広い米国や、内陸国である中国は万年水不足に陥っており、人が飲む水を確保するのも大変だが、農業・工業用水に利用する水が足りなくなっているのは大きな問題だ。

精密機器を製造する上では、不純物を取り除く過程で大量の水を必要としたり、農業を営む場合は当然だが、かなりの水がなければ穀物を育てられない。

農作地は、簡単に水を引っ張ってこれるような河川から近い場所が選ばれやすいが、河川が周囲に全くない農作地も多いのが現状である。

その為、地下水を汲み上げてきて農業に活用する地域は多い。

地下水について簡単に説明しておこう。

雨が降ると水が土壌に染み込んでいき、その水が長い年月をかけて土の作用によって浄化されていく。

粒の大きい土で形成されている地層では、水が通り抜けていくが、泥岩のような粒度の小さい地層では水が通れなくなる。

そこのポイントに、水が溜め池のように貯水されており、それこそが地下水と呼ばれるものだ。

井戸を造り、揚水ポンプで地下水を汲み上げて、農作地へと綺麗な水を供給してきたが、当然のごとく地下水には限りがある。

これまで大量の地下水を浪費してきた事で、世界中で地下水の枯渇が問題視されるようになってきているのだ。

地下水が使えなくなると、綺麗な水をタンク車などで大量に運ばなければならず、新たな運用コストが発生する。

そのタンク車が頻繁に水を供給する為に走らせていると、CO2排出量の増加にもつながっていくのだろう。

何より、農業生産のコストが高まるという事は、最終的にはスーパーなどの店頭での販売価格も値上がりする可能性が高い。

そして、忘れてはいけないのが、家畜などが食べる穀物の価格が値上がりするのであれば、牛肉などの食肉価格も大きく値上がりしてしまう。

なぜなら、牛や豚は人間よりも多くの穀物をエサとして食べなければならず、飼料コストの引き上げは食肉価格の引き上げに直結するからだ。

このように、世界的な水不足によって、野菜や穀物価格の上昇を招き、そして最終的には肉の価格高騰まで引き起こす事になりそうだ。

日本は島国で水はそれなりに手に入りやすい環境ではあるものの、地形的にも山が多く農業に向かない地域が多く、食糧自給率は未だに低水準である。

という事は、海外でインフレ(物価上昇)が加速し続けると、日本が海外から輸入する際に支払うコストも重くなる為、やはりインフレは日本人にとっても無関係であるとは言えないだろう。

水不足に食料危機、それをトリガーとした国民による反乱、資源を巡っての紛争やテロ攻撃、そしてウクライナ戦争や台湾有事、しばらく続いてきた平和は終わりを告げ、これからは激動の時代となるのは間違いなさそうだ。

日本が戦争に、直接的に巻き込まれるような事態にならない事を願っているが、台湾有事は日本も無関係でいる事は難しいはずだ。

来るべき脅威に備え、我々は自分の資産と家族の命を守り抜く為、世界情勢と資産運用について真剣に学んでおく必要があるのではないだろうか?

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