台湾有事が現実のものとなった時、アメリカや西欧諸国、そして我が国日本はどのように対応するのだろうか?
日本の自衛隊も台湾防衛を掲げ、中国軍と戦争することになってしまうのだろうか?
それとも、台湾を見捨て中国軍の侵略を受け入れる選択をするのだろうか?
様々な専門家がこのテーマについて議論しているので、彼らの意見も交えて考察していきたいと思う。
アメリカの対応
1979年、アメリカは台湾との同盟関係を維持する為に「台湾関係法」を制定し、台湾が自国防衛の義務を果たせるように軍事兵器の供与を可能にしている。
数年前にアメリカは2500億円相当の空対艦ミサイルシステム、バイデン政権では820億円相当の自走砲を台湾に売却決定している。
アメリカのこれまでの戦略としては、台湾有事の際に台湾を守るとは直接明言しておらず、実際にどうするかはその時になってみないと分からない曖昧戦略であった。
これに対し多くの人は、なぜアメリカは台湾を守ると明言しないのか疑問に思った人も多いのではないだろうか?
しかし、アメリカが台湾防衛義務を公表しないのは、2つの理由がある。
- 有事の際はアメリカが守ってくれると自信を付けた台湾は、積極的に独立運動を活発化させ、中国の反感を買う
- アメリカが正式に台湾防衛を公表すれば、中国は怒り心頭となり、さらなる軍事的圧力を高める可能性があり、事態の緊迫度を逆に高めてしまう
アメリカとしては、できればこのまま戦争を引き起こさないまま、穏便に暮らしていきたいのである。
一方で台湾は独立国家として国際社会から正式に認められたい、中国は早く台湾を自国の領土にしたいと考えている。
このように、米中台それぞれの思惑が異なっており、なかなか複雑な政治的理由も絡んだ問題となっている。
ここで問題となっているのが、近年アメリカの影響力は徐々に落ち始めているという点である。
かつては世界の警察とも称されたアメリカ軍が、アフガニスタンでタリバンとの20年にわたる紛争から撤退し、実質的にアメリカ側の敗北という形で終わってしまった。
また経済的な面でもアメリカ政府は莫大な借金を積み上げ、ドルの価値は年々低下し続けており、国際通貨としての立場が揺らぎつつある。
軍事やテクノロジーに関しても、30年前と比較するとアメリカと中国の間で大きな差が開いていたのが、現在は同等レベルにまで追い付かれてしまっている。
2021年では、迎撃が極めて困難とされる極超音速ミサイル開発を中国に先を越され、徐々に米国の軍事的優位性は失われ始めている。
2035年あたりでは、中国が米国のGDPを追い抜くとの予測もされており、サイバー・宇宙空間においても中国が先陣を切るだろう。
アメリカから見て中国は、もはや台湾有事という話以前に、覇権国家としてのアメリカの地位を将来的に脅かすライバルとみなしているのだ。
当然、アメリカは覇権を奪われるのを何としてでも阻止する為、最終的には中国との衝突は避けられないのだろう。
中国の海洋進出・影響力拡大を食い止める為には、アメリカとしてはアジアへの影響力を維持したいと考えるのが自然だ。
その為には、日本・韓国・フィリピン、そして台湾との同盟関係を今後もより強固にしていく必要がある。
アジアへの影響力を維持する上では、やはり日本との同盟関係が最も重要度が高くなると思われ、台湾有事の際でも日本の自衛隊の支援は不可欠となるだろう。
このことから、アメリカはアジアに対する影響力を引き続き確保するために、台湾有事の際はアメリカは台湾を防衛する可能性が極めて高いのではないかと結論づける。
ただし、世界一の軍事大国であるアメリカといえど、自国に直接攻撃された訳でもないのに他国の為に米兵を犠牲にしてまで守り切る価値があるのかという批判もある。
一時的に米軍が中国軍を追い返したとしても、それで中国軍があっさり諦めるとも思えない。
また台湾を攻撃しにくる時に備え、アメリカ側も長期間にわたって莫大な資金を費やし、台湾防衛力強化の支援を継続しなければならないだろう。
そうなれば、アメリカにとっても大きな経済的負担にもなるし、米兵が他国の戦争で大量に戦死することで、アメリカ国民からの不満の声が高まる事も想定される。
中国軍が驚異的な粘り強さを見せつければ、最終的にアメリカはアフガニスタンの件と同様に、台湾も見捨てる日が来るかもしれない。
そうならない為にも、アメリカだけに国防を頼るのではなく、台湾は自国防衛能力を強化しないといけないし、日本・韓国・オーストラリア・イギリスなどの同盟国との緊密な協調が必要不可欠となろう。
そう考えると、やはり台湾有事の際は、日本もアメリカと共に台湾防衛へと駆り出される覚悟はしておいたほうがいいだろう。
日本の対応
日本政府としては、同じ民主主義国家である台湾とは友好的な関係を築いてきたし、有事の際は助けてあげたいのが本音だろう。
しかし、実際問題中国との軍事衝突に巻き込まれる場合、米軍基地が多数存在している沖縄は、中国軍によるミサイルが雨のように降ってくるだろう。
そこまで多くない在日米軍と自衛隊だけで、日本国土を中国の脅威から守り切れる可能性は決して高くない。
つまり台湾有事の際に、日本の自衛隊が参戦するとなれば、日本国民の犠牲者が続出しインフラも大損害を受ける事が想定される。
今の日本人は戦争に対し強い拒否反応を示す傾向があり、政治的に日本が参戦すべき状況であっても、国民からの猛反発によって思い通りに事が進められないリスクもある。
とはいえ、台湾有事の際には米軍が日本への軍事的支援を間違いなく要請してくるはずだ。
それを、日本が拒否する事など果たしてできるのかという指摘もあり、国民が反対運動を起こそうが結局は日本も参戦せざるを得ないだろう。
日本の存続で何より重要なのは日米同盟であり、アメリカなしでは日本は経済成長も、安全保障も全く維持できない。
台湾有事という国際問題から日本が目を背け、アメリカからの支援要請を無視し、信頼を大きく損なうような馬鹿な真似をしてしまえば、最悪のケースでは日米同盟が揺らぐ事態になりかねない。
このことから、最終的には日本の自衛隊も米軍と共闘して台湾を防衛するという道を選ぶシナリオが濃厚である。
また、台湾が中国に支配される事で生じる深刻な問題があり、それこそが中国による台湾海峡の閉鎖である。
日本は資源に貧しい国であり、エネルギー資源や食料の多くを海外からの輸入に頼って食いつないでいる状況。
原油などのエネルギー資源の8割は中東から輸入しており、輸送船に資源を載せて日本にまで運んでいる。
この中東~日本までの航海路の事をシーレーンと呼び、シーレーンは日本の経済成長・安全保障の両方の観点からも最重要視されている。
なぜなら日本の原油備蓄量はたった1年程度しかなく、原油が枯渇すれば経済活動は完全にストップし、また戦闘機や戦車を動かすのに必要な燃料も底を尽きることで、有事の際に防衛任務に支障が出かねない。
第二次世界大戦で日本が敗北した要因の一つが、アメリカにシーレーンを封鎖され海外からの輸入経路を寸断された事による、補給物資不足に陥った事と言われている。
戦争では戦略よりも兵站が重視される為、日本の安全保障的にも、シーレーンの安全確保は絶対に譲れないのである。
シーレーンは、下記の画像で示される赤矢印のルートである。
ここで問題なのが、台湾海峡がシーレーン上にあるという点である。
仮に中国軍が台湾海峡を占領し、その周辺海域を中国海軍の軍艦や原子力潜水艦が自由に航海し始めると、一体どうなってしまうのだろうか?
台湾海峡の通航許可を、中国軍が好きなように判断できるようになれば、日本にとっては大きな脅威となりうるだろう。
その場合、中東からの輸送船を別のルートで遠回りさせるよう指示するのか、それともロシアや別の国からの輸入割合を増やしていくのか、どちらにせよ、これまで以上に国内のガソリン価格は急騰する事が予想され国民の生活を苦しめる事になりそうだ。
AUKUSの発足
2021年にAUKUS(オーカス)と呼ばれる、オーストラリア・イギリス・アメリカの3カ国による軍事同盟が発足した。
これにより、3カ国で軍事技術を共有できるようになり、オーストラリアは原子力潜水艦の製造が米英の支援によって可能となった。
AUKUSの発足理由は、インド太平洋地域における中国の軍事的影響力の拡大を懸念したもので、対中軍事同盟が目的とされている。
オーストラリアは最大の貿易国が中国である為、経済の事を考えれば中国と険悪になるのは避けたい思惑もあり、これまでは表立って中国の人権問題を全面的に批判する事は少なかった。
しかし近年、オーストラリアと中国の関係は悪化の一途を辿っているようにも見える。
2020年コロナショック時、オーストラリアはコロナ発生の起源を調査するべく、中国の武漢に調査要請を出したのだが、中国政府はこれに猛反発。
激しく起こった中国政府は、オーストラリアからの輸入品に対して関税をかける制裁措置を実行している。
中国海軍は軍事力を高めており、さらなる海洋進出の懸念が高まってきており、オーストラリアとしても自国防衛の意識がより高まってきているようだ。
そこで、オーストラリア海軍は原子力潜水艦の保有を検討し始めている。
原子力潜水艦は、動力を原子炉から供給しており海面に出て燃料を補給する必要がなく、半永久的に航行が可能と言われている。
海水を蒸発させて真水を容易に作り出す事ができ、水を電気分解する事で酸素を供給できる。
燃料を大量に積載する必要がない分、長距離ミサイルを大量に搭載可能であり、アメリカの原子力潜水艦は1隻につき150発以上のトマホーク巡航ミサイルが積まれている。
中国は対潜能力が欠けており、潜水艦を探知するのが非常に困難な状況である為、オーストラリアが原子力潜水艦を保有する事は、中国に対して抑止力となるのは間違いないだろう。
またアメリカ・イギリス・オーストラリアは、ファイブ・アイズのチームメンバーでもある為、協調性に関しては申し分ないだろう。
イギリス海軍の最新鋭空母、クイーン・エリザベスがインド太平洋を航海しており、西欧諸国側も中国に対する懸念を抱いている国は増えている模様。
中国側もこの状況を把握しており、アジア諸国に反米感情を煽ったり、中国から多額の資金援助を出したりなど、中国側へ味方をするよう誘導する動きが多く報告されている。
今後は、アメリカと中国のどちらの陣営につくか、選択を迫られる時代へと突入する恐れがある。
これにより、アメリカ陣営 VS 中国陣営 による第3次世界大戦へと勃発していくシナリオも否定できないのが怖いところだ。
そんな簡単に戦争が起きないと考える人も多いだろうが、皮肉なことに人類は既に、2度も世界大戦を経験しているのである。