ウクライナの存続危機

  • 2022年1月30日
  • 2022年1月30日
  • 軍事

ロシア軍によるウクライナ侵攻の懸念が日に日に高まっているが、戦争が始まった場合はどのような軍事作戦が展開されるのだろうか?

それを予測する為にも、ロシアとウクライナ双方の軍事力について調べてみた。

また、戦争が始まった場合に考えられる金融リスクについても考察していきたい。

ロシアの基本情報

  • 国名:ロシア連邦
  • 人口:1億4000万人
  • 面積:17,130,000 km²(世界最大で、日本国土の45倍)
  • 法定通貨:ルーブル
  • GDPランキング:11位
  • 軍事ランキング:2位
  • 兵員:正規軍:90万人、予備役:25万人、PMC:20万人~100万人
  • 戦闘機:772機
  • 戦車:12420台
  • 艦艇:291隻
  • 軍事予算:617億ドル(7兆1000億円)

ウクライナの基本情報

  • 国名:ウクライナ
  • 人口:4413万人
  • 面積:603,500 km²
  • 法定通貨:フリヴニャ
  • GDPランキング:56位
  • 軍事ランキング:25位
  • 兵員:正規軍:20万人、予備役:25~100万人、PMC:5万人
  • 戦闘機:125機
  • 戦車:1885台
  • 艦艇:2~5隻
  • 軍事予算:110億ドル(1兆2600億円)

ロシア軍とウクライナ軍の実力を比較

軍事大国のロシアと、軍事力が日本よりも低いとされるウクライナの実力を比較していこう。

各基本情報を見てもらえれば分かる通り、ウクライナがロシアに勝る要素は一つも無い・・・

軍事力を高める為には、それだけの軍事予算を確保しなければならない訳だが、この軍事予算についても一般的に経済力に左右されるものである。

まず、国の経済力を示すGDPに関しては、ロシアが11位でウクライナが55位と大きな差がが開いている。

しかし、ロシアは世界経済を動揺させるほどの影響力を持っているわりには、未だ発展途上国の位置づけであり、GDPは日本よりも低いままである。

ただロシアは、世界で最も広大な土地を有しており、エネルギー資源が非常に豊富である。

経済を維持する上で必要不可欠なエネルギーの確保は、日本を含め資源に乏しい国にとっては最重要課題となっている。

また、昨今ではSDGsが注目されるようになり、地球環境保護の観点からもCO2の排出制限を設ける国が増え、原油や天然ガスなどの掘削量が大幅に低下している。

その代わりに、CO2を排出しない原子力発電所の建設や電気自動車への移行などを進めている訳だが、これらには通常かなり長い時間を要するのである。

私自身、地球温暖化を抑止する目的でCO2排出を制限していく発想は共感できるのだが、だからと言って即座にガソリンを使わなくなる事は無いだろう。

電気自動車が普及するまでには数十年かかるだろうし、それまでの間はガソリンを使い続ける事になるだろう。

つまり、原油の供給量は短期間で大きく減少しているものの、コロナパンデミックが落ち着き始め経済再開に伴うガソリンの需要が急速に拡大している為、原油価格が暴騰している状況である。


上記は原油先物チャートだが、2020年3月のコロナショックで最安値を付けた後、量的緩和とSDGsによるCO2排出制限によって価格が上昇し続けている。

他にもエネルギー全般が価格高騰している為、海外に資源を輸出して外貨を稼いでいるロシアにとっては、まさに笑いが止まらないほど儲かっているのだろう。

ここで得た利益を軍事予算に回し、高度な軍事研究や最新鋭の戦闘機などを開発を行っている。

去年は、ゲームチェンジャーとも呼ばれていた極超音速ミサイルが大きな話題となっていたが、この技術開発において、ロシアは米国よりも進展しているようだ。

マッハ5以上で飛行する極超音速ミサイルは、弾道ミサイルと異なり弾道に従って飛翔せず、目標に向かって変則的な経路を辿る。

低空飛空も可能となり、地上配備型のレーダでは探知するのが弾道ミサイルよりも困難となる為、安全保障上の観点から周辺各国はただならぬ恐怖と焦りを感じているだろう。

なにせ、ロシアから飛んできたミサイルを打ち落とせる確率が低くなってしまったのだから。

その点、ウクライナにとっても極超音速ミサイルは深刻な懸念材料となるだろう。

ウクライナ側の重要な軍地拠点がこれらのミサイルにより一網打尽にされれば、補給部隊も壊滅してしまい、長期ゲリラ戦の展開も難しくなるのではないだろうか?

またロシアは、世界的に見てもかなり大規模な兵員数を抱えており、正規軍だけを見てもウクライナの5倍近く存在しており、徴兵制度が今も正常に機能しているかはともかく、予備役に関しては25万人~200万人くらいと想定されている。

ロシア軍の予備役や徴兵された兵士などは人数が多い為、一人当たりの給料が安く、これが軍内での不正や犯罪を助長させる要因となっており、軍内部の規律は良くないとされている。

とはいえ、有事の際はこれだけの規模の兵士が動員可能であるなら、長期戦における兵站はそれなりに十分機能するだろう。

ロシア陸軍は国土の面積に対して兵員数が少ないと指摘されるものの、戦車や軍用車両、自走砲やミサイル発射基地が非常に多く配備されている為、たとえ米軍が相手であろうと、容易にロシア本土を掌握する事は困難だろう。

その為、攻め込んできたロシア兵を仮に殲滅できたとしても、ウクライナ軍がロシア本土を攻め入るのは現実的ではない。

ということは、今回の戦争ではウクライナ側は自国の領土・領海をロシア軍から最後まで死守できるかどうかの戦いになるはずだ。

ウクライナはロシアと同じく発展途上国だが、ロシアよりも経済力は低く、1990年代にはハイパーインフレを経験し、IMFから度々財政支援を受けてきた。

何度も国が財政の危機に見舞われてきたものの、ウクライナは他国に建設需要向けの鉄鋼を輸出して稼いでおり、それなりの経済成長を遂げてきた。

しかし、その鉄鋼の輸出相手国はロシアが大部分を占めており、さらに問題と指摘されているのが、ウクライナの鉄鋼業は旧ソ連時代の工業設備を利用しているものであり、設備の老朽化や製品の付加価値が薄いと言われている。

また財政的にも余裕がなく、コロナショック以降でIMFからパンデミック対策資金として50億ドルの資金提供を受けている。

ウクライナ国内では政治家による汚職や不正が目立っており、最近では改善されてきているものの、IMFからの支援が途絶した状況が長く続いた場合、やはり資金繰りに陥る可能性は高まってしまうだろう。

今後、ウクライナとしては軍事力の強化も大切なのだが、まずは国内の経済成長を維持する為の政策が重要になってくると思われる。

経済が成長しなければ、軍事力拡大に必要な軍事予算も増やせないからだ。

 

ウクライナの軍事力について見てみると、正規軍は約20万人程度と、旧ソ連圏の中ではロシアに次ぐ規模となっている。

ただし、ロシア軍の90万人と比較すれば、かなり見劣りしてしまう。

装備の質・量ともにロシアに圧倒されており、ロシア側は陸軍・空軍・海軍ともに世界最高レベルの兵器を揃えている一方で、ウクライナは陸軍に軍事予算の多くを注ぎ込み、空軍の近代化は後回しになりやや時代遅れとなり、海軍はほぼ機能していない。

ウクライナの空軍は、スホーイSu27戦闘機やミグ29戦闘機などの第4世代戦闘機などが合計125機保有しているものの、第4世代戦闘機は30年以上前に設計・製造された旧式である為、ロシアの第5世代ステルス戦闘機チェックメイトには遠く及ばない。

とはいえ、第4世代戦闘機と言えば、日本の航空自衛隊の主力戦闘機F15も第4世代であり、戦闘能力自体はそれなりに高いと評価できる。

地対空ミサイルシステムであるS-300は、自衛隊が配備しているPAC-3に相当すると言われ、空軍の兵員も4万人を超えており、世界的に見れば割と豪華な装備を揃えていると言える。

ただし、戦争の相手がロシアである以上、いくら実力のあるウクライナ空軍と言えど、劣勢である事実は変えられない。

質と数の両方で劣るウクライナ空軍にとって、最新鋭の戦闘機を有するロシア空軍と戦うのは分が悪く返り討ちにあいやすいので、ウクライナ側が先制攻撃をしかける度胸はない。

仮に先制攻撃をしたとしても、すぐさまロシア空軍による猛反撃にあい、たちまち壊滅状態に追いやられるだろう。

その際、ウクライナ側の戦闘機はもちろん、空軍基地の滑走路や敵の戦闘機を発見する為のレーダーサイトも標的になる為、爆撃されることになる。

これはロシア側が先制攻撃する場合でも想定される戦略の為、ウクライナ側が先制攻撃をするしないに関わらず、実際に戦闘が開始されると同時に、ウクライナ側はレーダーサイトを即座に破壊され、ロシア軍機の位置を特定できなくなる。

つまり、戦闘開始から短時間で制空権をロシアに奪われ、ウクライナ軍としては、敵の地上部隊と交戦しながら敵の戦闘機や攻撃ヘリコプターによる空からの攻撃にもさらされる事になり、非常に不利な戦闘を余儀なくされるだろう。

 

海軍に関しては、もっと悲惨な状況であり、ウクライナ海軍は実質的に存在していないに等しいと言える。

海軍の運用には莫大な費用がかかる為、経済力・技術力・資金力に乏しいウクライナにとって、海軍の増強に力を入れられないのは仕方のないことではる。

そして、さらに悪い状況になったのが、2014年のロシアによるクリミア併合問題である。

当時、ウクライナ海軍の主力部隊が常駐していたセヴァストポリが制圧され、周囲一帯をロシア軍に包囲された為、勝ち目なしと判断したウクライナ海軍は降伏し、軍艦がそのままロシア軍に奪われている。

現時点では、ウクライナの真下にある黒海には、ロシア黒海艦隊が軍事展開しており、居場所の検知が非常に困難な潜水艦も多数配備されているようだ。

残り小規模なウクライナ海軍が、これら黒海艦隊と正面から戦って勝てる見込みは全くない。

しかし、探知がほぼ不可能とも言われている、通常動力型潜水艦が数隻でも配備されていれば、圧倒的なロシア黒海艦隊に対しても、ある程度の警戒感なら与えられるだろう。

また、実際に戦闘が開始された場合でも、敵に気づかれないうちにミサイルによる攻撃も可能となっていただろう。

 

そこで、世界大戦前から高い技術力を誇り、世界で3番目に武器輸出国として知られているドイツに、通常動力型潜水艦の提供を要請していたが、実際にドイツから提供されると決まった物は、軍用ヘルメット5000個であった。

このドイツの発表に対し、ウクライナは心底失望したと表明し、周辺各国からもドイツに対する批判が相次いでいる。

NATO加盟国でもあり、世界的に見ても軍事力が高いドイツが、ここまでロシアに対して贔屓するのは何故なのだろうか?

その背景には、ドイツのエネルギー事情が絡んでいるようだ。

現在のドイツはロシアからのガス輸送パイプライン「ノルドストリーム2」計画を推進しており、自国に必要なエネルギー資源をロシアに依存しきっている事情を抱えている。

この理由としては、ドイツを含めとするヨーロッパ諸国が地球温暖化防止の為、火力発電を辞めた代わりに、CO2を排出しない風力・太陽光・原子力発電所などへのエネルギー転換を急ぎ過ぎたせいで、電力不足に陥っているのだ。

この電力不足が深刻化すると国の経済成長がストップしてしまう為、天然資源が豊富なロシアから直接パイプラインを敷いて天然ガスを提供してもらっている訳である。

その結果、本来はロシアという軍事大国からの脅威に対抗する為に創設された、軍事同盟NATOに加入していながらも、ドイツはロシアに対して強硬姿勢を取る事ができなくなってしまったのである。

さすがは、2度の世界大戦に連敗しただけの事はある。

ドイツは技術力は高いものの、政治家が無能で他国に批判され続ける点は変わらない。

 

ウクライナに話を戻す。

ロシア海軍に敗北して以降、ウクライナは海軍の復興を目指そうとしたものの、もはや今から軍艦を建造する経済的余裕など無く、仮に数千億円を投じて数隻建造できたところで、ロシア海軍と渡り合えるようになる可能性は限りなく低い。

それならば、海軍の軍備増強に予算を投じるよりも、陸軍・空軍の装備近代化に注力したほうが効果は高いと思われるという事で、歩兵部隊の装備強化や、陸軍主力の戦車隊の近代化に力を入れてきた。

ウクライナの歩兵部隊は世界各国の軍隊と比較しても、よく訓練された精鋭部隊であり、装備の近代化も相まって、ゲリラ戦などを展開することで長期間にわたりロシア軍を消耗させる事も可能と見られている。

また地元住民達もかねてよりロシアからの領土侵略の危機意識は高く持っており、戦争が始まった場合は民間人も戦闘に参加する事が想定される。

ニュースでは、親が自分の子どもに銃や対戦車ミサイルの扱い方を教え、有事の際には戦闘に参加させると報道されている。

何とも悲しいニュースだが、自分の故郷を守る為に命をかけて戦う人々を、NATOを初め世界で支援していく必要があるのではないだろうか?

ウクライナの面積は日本の面積よりも広く、これだけ広大な土地の占領ともなると、さすがのロシア軍といえど人手が足りないのではないかとの見方もある。

最終的にどのような状況になれば戦争に勝利したと断言できるのか、今の段階ではよく分からないが、ウクライナ軍が粘り強く各地で抵抗を続ければ、ベトナム戦争のような数年にも及ぶ長期ゲリラ戦により、ロシアは兵士を無駄死にさせてしまい、国内の遺族からの批判も相次ぐだろう。

それに、欧米諸国からの経済制裁も免れず、ロシア経済は疲弊し続ける事で国民からの支持率も低下し、プーチン大統領にとっても望んでいた展開にはならない可能性もある。

金融リスクに対する投資戦略

直近でも、米国と英国は、ロシアがウクライナに侵攻した場合は、ロシアに対してSWIFTから締め出すという前代未聞の切り札をちらつかしている。

SWFITとは、銀行間の国際金融取引を安全に自動処理するため、参加銀行間の国際金融取引に関するメッセージをコンピュータと通信回線を利用して伝送するネットワークシステムである。

通常、他国との貿易において決済や支払いを行う際は、このSWIFTを通じてお金を送金している。

このSWIFTからロシアが締め出されるという事は、他国との金銭の支払いが不可能となり、それはつまり、他国との貿易が打ち出される事を意味し、ある意味では鎖国状態に陥るわけである。

ロシア経済の支柱でもあるエネルギー資源の輸出は、総輸出総額の6割近くも占めており、ある日突然打ち切られることになれば、外貨を稼ぐ事ができなくなり、ロシア経済が大きく揺らいでしまうだろう。

 

このようにエネルギー資源の輸出が困難になるケースでは、日本も含め西欧諸国ではロシアからの資源輸入ができなくなり、軽い混乱が発生する事も想定される。

エネルギーが手に入らないと経済が回らなくなり、食料を運ぶ事も難しく食糧危機に陥り、北米の寒い地域では暖を取る為の灯油すら確保できなくなる。

安全保障の観点で見ても、戦車・戦闘機・軍艦を動かすのにも大量の燃料が必要で、エネルギー資源の確保は全ての国にとって急務と言える。

また、需要と供給の観点で見ても、今でも値上がりしている原油価格がさらに急上昇することで企業のコスト負担が重くなる。

 

このシナリオに賭けるのであれば、ロシアによるウクライナ侵攻が現実になれば、エネルギー資源などの先物取引でロングポジションを持っておくのが良いかもしれない。

また、実際の戦闘ではNATO諸国による支援が強化される為、アメリカやイギリスなどが介入してくる可能性も高く、大規模な戦争へと発展するリスクも念のために想定しておきたい。

そういう意味では、株式市場に大きなインパクトを与える事になり、全般的に下落トレンドに入るだろう。

その一方で、ウクライナやその周辺各国は戦争激化に備え、軍拡を急速に進める国も続出するだろうから、軍事兵器の需要が高まるという意味で軍事関連株を保有しておくのもアリかもしれない。

そして、このような大規模な戦争が勃発した場合は、株式市場がリスクオフになりやすい反面、安全資産と呼ばれるGoldや、どの国にも属さないBTCへ資金流入する可能性も高いだろう。

実際に、2020年1月にイラクが米軍基地に弾道ミサイル攻撃を行った際、ビットコイン価格は急上昇している。


ただし、最近のビットコイン市場は、株式市場と連動しやすい傾向が高まっている為、株価が暴落するとBTCもつられて下落する可能性は否定できない。

その為、GoldとBTCの両方を保有しておくと安心できるのではないだろうか?

最後に

ここまでウクライナとロシアの軍事事情と、周辺各国との関係について簡単に解説してきた。

1対1の単体勝負であれば、ロシアが勝利するのは間違いないだろう。

しかし、現代戦争とはそのような単純なものではなく、実際にはハイブリッド戦争と呼ばれる非常に高度で複雑な攻撃が行われるはずだ。

サイバー戦争による通信システムの遮断・PMC工作員による各地でのテロ攻撃・SNSやメディアを駆使した世論の印象操作・偽旗作戦などなど、いわゆるグレーゾーンでの緻密な軍事作戦が展開され、戦わずして勝利する戦法である。

これに関しては、ウクライナよりもロシアのほうが何倍も上手であり、今後も様々な攻撃が密かに実行されていくだろう。

ロシア侵攻懸念に関しては、中台戦争よりも現実味のある話だと個人的に考えている。

また、ロシアがウクライナ侵攻を始めた際は、米軍がロシアに気を取られアジア地域の守備が手薄になりやすい為、中国がそれを好機と捉えて軍事作戦を遂行するキッカケになるかもしれない。

そうなれば、ロシア・中国・米国を巻き込んだ第3次世界大戦勃発に繋がりかねないが、残念な事に可能性は0ではないのが現実である。

平和とは、次の戦争の準備期間という言葉を聞いた事があるのだが、本当にそうなのかもしれない。

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