為替ヘッジとは?

米国資産を保有する時に、米ドル円相場が大きくドル安に傾いてしまうと、想定されていた利回りを下回る可能性がある。

これを為替変動リスクと呼ぶが、米国株投資が盛んに行われるようになった昨今、ドル安リスクへの備えも考慮するべきだろう。

そこで今回は、為替ヘッジについて概要と仕組みを解説したいと思う。

為替変動リスクとは?

まず、米国株式に投資する場合は、米ドルを用意しなければならず、日本円で米国株を購入する事は基本的に出来ない。

投資する際に、日本円を米ドルに交換した時と、逆に米ドルから日本円に戻す際の、それぞれの為替レート次第で、円建てで見た時の総合リターンが大きく増減する事になる。

例えば、米国株の株価が購入してから全く変動していなくても、株を購入した時より売却した時のほうがドル安になっていると、円建てのリターンはマイナスになる訳である。

これが為替変動リスクであり、このリスクを抑える手段が、為替ヘッジである。

米国が無尽蔵に借金を積み上げていき、このまま基軸通貨の地位が揺らいでしまうと、米ドルの相対的価値は低下するかもしれない。

そうなれば、米国株を長期投資していると、株価が順調に上昇していてもドル安で損をしてしまう事になるので、気を付けておきたい。

為替ヘッジの仕組み

10,000円相当のドル建て米国株や債券を購入するケースを例に考える。

まず、10,000円を米ドルに交換する。この時の為替レートが1ドル100円と仮定する。

つまり、100ドルを受け取る事になるので、実際に100ドルを株や債券に投資する事になる。

この取引において為替ヘッジをする場合、資産運用会社などが為替スワップを行う。

為替スワップとは、直物(スポット)取引で米ドルを買うのと同時に、その逆の取引として先物取引で米ドルを空売りすること。

直物で米ドルを買った後にドル安が進行すると為替差損となるが、先物取引で米ドルをショートしておくことで、ドル安になれば為替差益を得られる。

これによって、直物の為替差損と先物の為替差益が相殺され、結果としてドル安による損失を軽減することが可能となる。

為替レートには、買い注文を出してから通貨を引き渡される時期によって、直物為替と先物為替に区分される。

直物為替が取引日から2営業日後に通貨を引き渡されるのに対し、先物為替では取引日から3日後以降に通貨を受け取る。

直物と先物の為替レートは異なることが一般的であり、これを直先スプレッドと呼ぶ。

先物為替レートの変動要因は、直物為替レート変動と、通貨間の金利差で決定される。

直物為替と先物為替のレート比較によっては、プレミアムとディスカウントが発生する。

  1. ディスカウント: 直物為替レート > 先物為替レート 
  2. プレミアム:   直物為替レート < 先物為替レート 

 

先物為替レートの決まり方については以下の通り。

<ディスカウント>

  • 先物為替レート = 直物為替レート - 直先スプレッド

<プレミアム>

  • 先物為替レート = 直物為替レート + 直先スプレッド

 

先物レートは、米ドル金利と日本円金利の影響を受けやすく、スポットレートが1ドル=100円、米ドル金利が4%、日本円金利が1%であった場合の先物レートは99円26銭となる。

スポットレートから先物レートを引いたスプレッドは、-74銭になる。

そして米ドル金利が5%に上がり、日本円金利を0.5%まで引き下げると、先物は98円89銭となり、スポットレートから先物レートを、-1円11銭に拡大してしまう。

このように、日米短期金利差が拡大することで、現物と先物のスプレッドも拡大する為、先物レートはドル安になりやすい。

日本は長年にわたり低金利政策が行われてきたので、直先スプレッドの拡大が為替レートに反映され、結果的にヘッジコストの負担増加につながるだろう。

短期間ならまだしも、長期投資においてヘッジコストの負担というのは、逆に円建てリターンを擦り減らすことになりかねない。

為替ヘッジは、米ドル価値の急激な下落に対しては確かに有効であると考えるが、短期的には米国で利上げが行われる予定の為、ヘッジコストについても十分に考慮しておきたい。

それに加え、米国株の積み立て投資であれば、毎月決まった日に一定金額を購入する戦略のおかげで、株価の購入価格を平均化できるだけでなく、為替の側面でも米ドルの購入価格を平均化できるだろう。

つまり為替ヘッジとしては、コツコツ積み立て投資ケースよりかは、一括で大きな資金を投じる投資のほうが、為替ヘッジの効果は見込めると言えるだろう。

とはいえ、今後より米国の債務増加や、インフレが深刻化していくと、米ドルは想定外の暴落を引き起こす可能性も否めない。


特に、台湾海峡を巡って米中戦争が現実のものとなれば、米国株と米ドル両方暴落することになり、投資家は大打撃を受けるだろう。

21世紀に入って、大規模な戦争が起こる事などあり得ないと誰もが考えていたが、事実としてロシアはウクライナへ軍事侵攻している。

中国が台湾へ攻め込むかは分からないが、最悪のシナリオを常に想定し、それに備えるポートフォリオを構築しておく必要がある。

そういう意味でも、米ドルの地位が脅かされている今、為替ヘッジの重要性は高まっているとも言えるはずだ。

米ドルの地位が揺らいでいる事については、下記のサイトで詳しく記載しているので、参考にしてもらいたい。

米ドルの価値は危うい? の解説記事へ遷移

 

 

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