台湾有事とは?

最近よくニュースで話題になっている台湾有事について、簡単に状況を整理しておきたいと思う。

そもそも、なぜ中国は台湾に対して軍事的圧力をかけ続けているのか、詳しくない人の為にも歴史を振り返るところから始めよう。

台湾建国までの歴史

もともと台湾は中国の支配地であったが、日清戦争(1894年)で敗北したのをキッカケに、一時的に日本軍の占領下に置かれる。

近代化の導入が遅れていた中国(当時は清)は、日本や欧米諸国による軍事的侵略を受け続けており、国民は危機感を募らせていた。

1911年、孫文による辛亥革命(近代国家を作るのが目的)が起こった事で、これまで長年統治してきた清が倒され、中華民国が建国された。

1945年、第二次世界大戦で敗北した日本軍が完全撤退をした事で、日本の占領下にあった台湾が返還され、中華民国が統治し始める。

しかし、この時の中国国内では大きく2つの勢力に分かれており、蒋介石率いる国民党政権(民主的)と、毛沢東率いる共産党政権(社会主義的)は敵対関係であった。

世界大戦が終結してから数年後、国民党政権勢力と共産党政権勢力は内戦状態に突入し、最終的には物量が多い共産党政権側が勝利を収めた。

内戦に敗北した国民党政権側は、逃げるように台湾という小さな島に撤退していった。

1949年、中国本土にて中華人民共和国が樹立し、国際的に独立国家として正式認定された。

一方、台湾側も蒋介石が中心となって、中華民国を建国し独立したと発表したものの、中華人民共和国は断固としてそれを認めようとはしなかった。

その後、中国は社会主義国家としてロシアや北朝鮮と友好関係を維持しながら経済成長と軍事力強化を遂げていき、台湾は民主主義国家として米国や欧州などの支援を受けながら経済を急成長させてきた。

台湾有事とは?

ようやく本題に入るが、台湾有事という言葉をニュースで頻繁に見かけるようになったが、具体的にどういう意味なのだろうか?

先ほど説明してきた台湾建国までの歴史を振り返って気づいた読者も多いと思うが、中国本土を統治している中華人民共和国が台湾独立を認めていないという事は、国家として独立されると都合が悪い事が多い事を示しているのだ。

元々台湾は中国の領土であり、その領土を実質的に占領されている状態を中国は絶対に許すことはないだろう。

また、毛沢東の時代から中国は台湾を取り戻す事を決意表明しており、その意向は現政権でも変化はない。

50年前の中国は経済力も軍事力もそれほど高くはなかった為、台湾への軍事侵攻は失敗するリスクのほうが大きかった訳だが、今の中国は世界最強のアメリカと肩を並べるまでに強く成長している。

今後も著しい経済発展を遂げる上で、軍事的優位性においても台湾を遥かに上回っていく事が想定される。

つまり、中国人民解放軍は台湾を攻め落とせるだけの戦闘能力を手にしつつあり、いつ全面戦争に突入してもおかしくはない。

中国と台湾による領土をめぐっての全面戦争、これが台湾有事と呼ばれる国際問題なのである。

台湾侵攻する理由

中国共産党の最高指導者、習近平主席は「祖国の完全統一という歴史的課題は必ず果たされなければならないし、必ず果たされるだろう」と発言し、これに対し台湾は強く反発し、断固として軍事的圧力に屈しないと表明している。

アメリカのシンクタンクによれば、中国は6年以内に台湾へ軍事侵攻する可能性が高いとの見解を出した。

軍事的な衝突を引き起こせば、中国といえど無傷では済まないはずだが、なぜこれほどにも中国は台湾にこだわるのだろうか?

それには、いくつかの要因がある。

  • 台湾は半導体製造技術と売上シェア率が世界トップである為、これらの技術を独占する事で、米国を含む西欧諸国への半導体輸出を自由に制限する事が可能となる
  • 排他的経済区域があり、水産資源も豊富であること
  • 中国は多民族国家であり面積も非常に広く、国家統治が極めて難しい状況にも拘わらず、都心と農村の間で深刻な経済格差が問題となっており貧困層からの不満が爆発していること
  • 中国国内の一部の民族は昔から独立を望んでいる為、台湾が正式に独立国家として認定された場合、他の民族達も独立運動が急激に活発となり、最終的には国家分裂を引き起こす恐れがある
  • 台湾海峡を支配することで、アメリカを中心とした外国勢力の影響力を削ぐ狙いもある
  • 中国では自然災害による食糧不足に陥っている地域がある為、支配地域を増やすことで貴重な水資源と農作地を確保したい思惑もある
  • 現政権の習近平主席は、毛沢東でさえ実現できなかった台湾統一を、自身が就任している間に成し遂げたいという野望がある

これ以外にも理由は沢山あると思うが、中国としては台湾を支配下に置いたほうが都合がいい理由が多すぎるようだ。

実際に戦争が勃発した場合、小国な台湾は中国からの脅威に対抗しうるだけの軍事力を保持しているのだろうか?

次は台湾の実情について見てみよう。

台湾の基本情報

  • 国名:中華民国(台湾)
  • 人口:2300万人
  • 面積:九州とほぼ同じ大きさで、非常に小さい島国
  • 法定通貨:ニュー台湾ドル
  • GDPランキング:22位
  • 軍事ランキング:22位
  • 兵員:190万人
  • 航空機:837機
  • 戦闘機:286機
  • 戦車:1885台
  • 艦艇:87隻
  • 軍事予算:107億ドル

中国の基本情報

  • 国名:中華人民共和国(中国)
  • 人口:14億人
  • 面積:日本全体の26倍
  • 法定通貨:人民元
  • GDPランキング:2位
  • 軍事ランキング:3位
  • 兵員:210万人
  • 航空機:3187機
  • 戦闘機:1222機
  • 戦車:10350台
  • 艦艇:714隻
  • 軍事予算:2000億ドル

中国と台湾の実力差

30年前までは中国よりも台湾のうほうが、質の観点では圧倒的に優れていた。

しかし、近年の中国軍は質・量どちらでも台湾を圧倒するまでに軍拡してきており、台湾としては非常に厳しい状況である。

台湾はかねてより、中国軍による軍事侵略を想定しており、防空システムの強化に力を注いできた。

台湾の防空ミサイル密集度はイスラエルに次ぐ、世界2位で中国を上回っている。

戦闘機の性能や機数では劣勢であるものの、地上配備型の対空ミサイルシステムを大量配備している為、中国空軍側も容易に制空権を確保できるとは言い難い。

戦闘機の数を比較してみると4倍以上の差をつけられているものの、その全ての航空戦力を台湾に向けられる訳ではないだろうから、実際に戦闘参加するのは半数以下となるだろう。(全機を台湾に派遣すると、中国本土防衛が手薄になる為)

中国と台湾の間は海であるため、戦車を直接輸送するのも不可能であり、輸送ヘリや艦船に乗せて運ぶ必要がある。

また台湾本土には3000m級の山が複数存在しており、これらも中国陸軍の上陸作戦を遂行する上での障壁となる。

台湾の動員可能な兵士は190万人と非常に多く、これほどの兵力と正面からぶつかり合うのであれば、中国軍側は「兵士・武器・弾薬・食料・医薬品」などを絶え間なく上陸部隊へ補給し続ける必要があるだろう。

戦争で勝つために何より大切なのは、兵站であり戦略ではない。

どれだけ優れた軍事戦略を立案できたとしても、実際の戦場ではあらゆる物資が不足し、思い通りに作戦を遂行できなくなることは多々ある。

戦争経験が非常に豊富なアメリカ軍は、兵站の需要性を理解しているからこそ、補給支援部隊が世界一大規模なのである。

中国の軍事力は高まっているとはいえ、いまだ戦争経験はゼロであり、台湾を攻め落とせるだけの能力が十分に備わっているのかは怪しいところ。

また台湾が中国軍に上陸されようものなら、アメリカを筆頭とする国際社会が黙って見逃すはずもなく、台湾に軍事的支援を行う国が出てくる可能性が極めて高い。

そうなれば、中国の空軍・海軍はアメリカ軍の攻撃を受ける事になり、補給物資を上陸作戦部隊に届けるのが困難になる。

結果的に、台湾に上陸した中国軍は弾薬・食料・医薬品が枯渇し、全滅してしまうだろう。

 

次回は、台湾有事の際、日本を含め海外勢力はどのような反応を示すのかを考えていきたい。

 

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