デフレは国家を衰退させる?

世界中がインフレ加速に頭を悩ませている中、日本にインフレが起きる気配は感じられない。

かねてより、日銀は物価上昇率2%の達成を目指してきたものの、現実は失われた30年と揶揄されるほどデフレから脱却できていない。

そもそもなぜ、日銀はインフレ率2%を目標としているのだろうか?

それと、デフレから脱却したいと考える理由は何なのだろうか?

この記事では、これらの疑問に対して考えていきたいと思う。

日本のデフレ状況

デフレが長く続いたことで、日本経済は縮小してしまったと何度も指摘されてきたのだが、そもそもデフレとはどういう状況なのか?

デフレーション(デフレ)とは、物価が下がり、通貨価値が上がる経済状態を指す。

分かりやすく説明しよう。

今の日本人は皆がお金を使わずに貯金ばかりするので、消費活動が下がり物が売れなくなるので、企業側は値下げせざるを得ない。

値下げをするという事は、当初想定されていた売上よりも少ない利益となるので、従業員に支払う給与・ボーナスも減っていく。

給与が下がった従業員は、今後も収入が減る事を恐れ、今のうちに貯金を蓄えて将来に備えようとするだろう。

すると、消費がさらに冷え込み、物が全然売れずに不景気に突入していく。

これは負のスパイラルに陥りやすく、不景気で物が売れない状況が続く中では、企業としても事業拡大への投資は控えるし、新たな技術の研究開発に費やす資金も増加しにくい。

結果的に、日本の経済基盤が衰退し、経済規模も縮小するなど、ろくなことが無い。

鎖国をしていた時代であれば、デフレであってもさほど困らなかったのかもしれない。

しかし、近年のグローバリゼーションにおいては、日本経済が世界に引けを取らないくらいに成長しないと、日本の地位が今後ますます危うくなってしまうだろう。

そもそも、日本国内で消費される原油・天然ガスなどのエネルギー資源のほとんどが、海外からの輸入で賄っている状況である。

海外から購入する際は、米ドルなどの外貨に両替する必要がある訳だが、経済衰退が著しい日本の通貨なんて誰が要るか、なんて言われ始めたら、もうガソリンを手に入れる事すらままならなくなってしまう。

日本の石油備蓄量は約240日分のみであり、1年も持たずに干からびる計算だ。

石油は、自動車や飛行機を動かすのに必須な燃料であり、石油がなければ物を輸送する事も出来ず、日本経済は終焉を迎える。

また、戦闘機や戦車、戦艦などを動かすのにも当然のごとく石油が必要であり、これは日本の安全保障にも死活問題となる。

このように、デフレが続いた事による日本の末路は悲惨そのものである。

次に、日本の低賃金について話をしよう。

OECD加盟国における、平均賃金ランキングを以下に示す。

OECD 平均賃金 より引用

OECD(経済協力開発機構)はヨーロッパ諸国を中心に日米を含め、38ヶ国の先進国が加盟する国際機関である。

日本の平均賃金は23位となっており、他の先進国と比較してみても最下位レベルであり、隣にはスペインが並んでいる・・・

これだけ見てると、日本が先進国と言えるのか分からなくなってきた。

 

次に、最低賃金ランキングについても確認してみよう。

日本の低すぎる最低賃金を引き上げようと政府が努力したおかげもあり、日本の最低時給は数十円単位で上がっている。

下記は、OECD加盟国の最低賃金ランキングを示すものである。

日本の最低賃金「メキシコ並み」OECD25位の衝撃 より引用

なんと、日本の最低賃金は、途上国のメキシコと同じ水準で、さらに隣国の韓国よりも遥かに低いのである。

一口に最低賃金と言っても、その国の経済規模や労働生産性によっても基準が大きく異なるので、最低賃金の差を比較するなら生産性が同レベルの先進国を見ないといけない。

アフリカなどの貧困地域では、時給が数百円であることは珍しくはない。

その為、生産性が低い国の最低賃金が低いのは仕方のない事だが、日本はその生産性が低い国よりも時給が低い。

アメリカの賃金が最下位なのは、アメリカの最低賃金の決め方が特殊の為、ここでは一旦無視していい。

現実として、日本の最低賃金は先進国、途上国どちらの国々と比較しても低水準なのが分かった。

その言い分として、賃金を上げ過ぎると企業の負担が増加するので、倒産する確率を高めてしまうと指摘されている。

つまり、賃金を引き上げた結果、倒産企業が増えて失業者が続出するようでは本末転倒という訳である。

しかし、過去のデータを分析した結果、実際に最低賃金を引き上げると企業の生産性が向上し、むしろ業績が良くなることで失業者が減ったという指摘もあるようだ。

理由として、最低賃金を引き上げると、企業側は固定費増加に伴う利益減少を食い止める為に、生産性を高めようと動くからである。

という事は、最低賃金を引き上げる事で、企業は利益確保の為に生産性を上げようと努力するので、日本経済全体の生産効率も高まっていくことが想定される。

岸田総理も、分配と成長を掲げ、最低賃金の引き上げに注力しているので、この取り組みには期待している。

 

さて、賃金の引き上げが重要なのは分かったが、そもそもなぜ日本の賃金は上がらなくなったのか?

その主な要因は、国民が安い物を求め過ぎたことにある。

材料費の高騰が続いても、日本企業は消費者の目を恐れて値上げに踏み切ることができない傾向がある。

その一方で、アメリカやヨーロッパ諸国は、消費者からの批判を気にする事無く、費用が高騰したら販売価格も容赦なく値上げする。

それは低所得者から見れば、生活苦に陥りやすくなるものの、国全体の経済成長を考慮すれば、値上げは良い判断と言える。

なぜ値上げが必要なのかについては、先ほども説明したように、材料費が高騰したのに販売価格を上げなければ、企業の利益が下がり従業員の給料も下がり、消費が冷え込み不景気に陥るリスクが高まるからである。

このデフレ状態が続いた日本には、絶望的な未来が待っているので、何としてでもデフレから脱却しなければならない。

現状として、日本のシングルマザーの相対的貧困率は、50%を超えてきており、2人に1人は生活苦に追い込まれている。

内閣府「平成26年版 子ども・若者白書」 より引用

御覧の通り、発展途上国でも35%を下回っている状況下で、先進国の日本はこのザマである。

日本は教育レベルも低下し、経済成長も止まり、物価も安いせいで給料も一向に上がらない。

日本のシングルマザーは就業率が85%を超えており、ほとんどの母親は子どもを養うために必死に働いている。

それにも関わらず貧困状態に陥る理由は、賃金が低すぎるがゆえに年収が200万円にも届かないからである。

子どもの面倒を一人で見るには、子育ての時間も必要となり、正社員として雇用されるのは難しい。

その為、ボーナスも出ない、昇給制度もない、不景気時には真っ先にリストラ対象の非正規雇用として採用されるシングルマザーが大半を占めている。

年収が少ないと、支払う年金保険料も少なくなるので、将来受け取れる年金支給額も雀の涙程度で、地獄の老後生活が待っている。

貯金もなければ家を購入する余裕もある訳がなく、一体どう考えれば、日本に対して希望を抱けると言うのだろうか?

頭の良い人達は、日本を見限り、既に海外移住を始めているのが現状である。

下記の画像は、日本から海外へと移住した人数の推移を示している。

海外在留邦人数調査統計 より引用

見ての通り、海外移住者の人数は年々増加し続けており、日本の富裕層や高度人材が流出している。

日本経済を支えるエリート層がいなくなれば、経済基盤のさらなる陥没を招き、より日本は貧しい国へとなってしまうので、人材流出は避けたいところ。

また、賃金の高い仕事を求めて、日本の低所得者が海外へ出稼ぎしに行くケースも増えている。

出稼ぎ先は、米国を選ぶ割合が多いが、最近では経済発展が著しい中国へ移住する人が多くなっている。

直近のニュースでは、月給9万円のアニメーターが貧困に苦しんでいたところを、中国企業が月給35万円、住宅補助、交通費支給という好条件を提示したことで、アニメ産業の人材が中国へ流出している。

「月給9万円」低賃金放置 アニメ産業、中国に人材流出

アニメは日本が誇る産業の一つで、世界的に見ても評価はかなり高い事が知られている。

しかし、その話も過去のものとなってしまうのだろうか?

このように、賃金が低すぎる日本を出て、待遇の良い海外へと出稼ぎに行く労働者が増えていく動きは、日本にとっても問題である。

それに、出稼ぎに向かう日本人労働者も、海外で働くとなると、様々な苦難に見舞われるだろう。

安い賃金の国から来た何のスキルも持たない日本人が中国に行っても、その国の人々がやりたがらない仕事を押し付けられたり、人種差別を受ける事は明白だ。

高度なスキルを身に着けた希少な人材であれば、対応も待遇も大きく変わってくるだろうが、出稼ぎに行く人が全員優秀とは限らない。

長時間労働やパワハラ、日本よりも人権に対する意識が欠如した国などでは、酷い仕打ちが待っている可能性は否めない。

実際、日本では少子高齢化による人手不足を補う為、外国人労働者を雇い入れることで、事業を維持できている現状なのだが、日本の職場は外国人労働者に冷たい対応を取ったり、猛烈ないじめ、パワハラ、セクハラし放題の無法地帯化しており、世界中から人権侵害だと批判されている。

また、これまで何度も伝えてきたように、日本の賃金は相変わらず低いままで、精神を擦り減らしながら働く割には、待遇も悪い。

日本で働く中国人が受けている「深刻ないじめ」、外国人労働者軽視の実態

この悲惨すぎる労働環境を問題視し、アメリカからは、外国人労働者搾取のために悪用し続けていると指摘されている。

米、日本の技能実習を問題視 国務省が人身売買報告書

もはや労働契約と言うより、人身売買の真似事を日本は長らく行ってきたのである。

中国政府によるウイグル人迫害を非難しておきながら、日本でも外国人労働者を奴隷のようにこき使っている。

日本に人権問題を語る資格はないだろう。

金が無くなると人は心の余裕がなくなると言うが、まさかここまで落ちぶれるとは非常に残念だ。

これだけの酷い仕打ちを、我々は外国人労働者にしてきたわけだが、未来の日本の立場は入れ替わる事が予測される。

少子高齢化・増税負担・経済低成長・低賃金・貧困化・財政危機など、不安材料で埋め尽くされる日本で働く事に嫌気をさした労働者が海外へ出稼ぎする人数が増加していくだろう。

つまり、今までの日本は外国人労働者を受け入れる側であったが、これからは日本人が外国人労働者として出稼ぎにいく側になるということ。

海外の言語を学ぶ必要が高まり、コミュニケーションを円滑に取る事も困難となり、職場での立場も非常に不利となる。

日本の賃金が低すぎる問題が、最終的に未来の若者が海外で危険な仕事をさせられ、強烈なパワハラ・セクハラを受ける日々を送り、文字通り奴隷のような人生を送る羽目にならないことを祈るばかり。

インフレを目指す

賃金と物価が安いデフレが続くことで、日本に待ち受ける絶望シナリオについて解説してきた。

もちろん、日本政府としてもデフレから脱却する為の政策は既に打ち出している。

それが、物価上昇率(インフレ率)2%を目標として、デフレからの脱却を図っている。

インフレとは、物がよく売れる好景気な状況を指し、売り上げが伸びるので従業員の給与・ボーナスもアップし、資金に余裕が出てくる事で消費が活発になり、経済が順調に発展していく。

経済が発展していくと、企業はより生産性を高める為に事業投資したり、研究開発に資金を投じ、新しい産業が生み出され、労働需要も高まっていくだろう。

日銀は、インフレ率2%の目標を達成する為に、低金利政策や量的金融緩和を継続してきた。

低金利政策により、銀行からの借入をしやすくなり、事業拡大を進める企業を増やす狙いがある。

量的金融緩和で、新たに印刷した紙幣で、日銀が民間銀行から国際を買い入れることで、民間銀行は現金の保有割合が高まる。

ただし、低金利政策により現金には金利が付かず儲からない為、民間銀行は潤沢な現金を企業に貸し付け金利収入を得ようとしたり、社債や株式などへの投資を検討し始めるだろう。

これにより、お金の流れが活発化することで、景気が刺激され、デフレから抜け出せると言われてきた。

2013年から安倍首相と黒田日銀総裁が連携して、アベノミクスの3本の矢のうちの一つである、異次元の金融緩和を開始した。

しかし、今のところ目立った効果は見られない。

2020年のコロナショック以降、国債の買い入れ上限を撤廃し、さらなる緩和政策を発表したものの、インフレになる気配は感じられない。

今後は金融緩和をより強化していくのか、それとも全く別の政策を打ち出すのか、日本政府に残された手札は無くなりつつあるようにも思うえるが、日本経済の沈没を食い止める為、そして未来を生きる日本の子どもの為に、あらゆる手段を尽くして経済の回復に努めてもらいたい。

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