量的金融緩和とは?

よく経済ニュースで聞く言葉、「 量的金融緩和 」の意味をご存じだろうか?

簡単に説明すれば、紙幣を大量印刷する事で、お金の流れを活発化し景気を良くしようとする政策である。

この金融政策に関しては、昔から世界中で賛否両論あり、必ずしも経済にとってメリットばかりではない。

むしろ、最近は量的緩和政策の失敗が引き金となり、経済危機に陥る可能性があるとも指摘されている。

このような不確実性の高い政策は、株式市場はもちろん、あらゆるマーケットに対して多大なる影響を与える為、投資をする上では知っておくべき重要な知識である。

この記事では、量的金融緩和政策のメリット・デメリットについて簡潔にまとめている。

量的金融緩和とは?

日本の中央銀行である日本銀行が長年実施してきた金融政策の一つ、量的金融緩和とはどういう内容なのだろうか?

まず、中央銀行である日本銀行(以下、日銀と略称)の立場と役割を説明しておこう。

日銀は政府から独立した組織であり、日本経済における物価の安定を維持する為に活動している。

例えば、景気が極端に過熱しインフレ(物価上昇)が起きると、生活必需品の価格が高すぎて国民は生活しづらくなってしまうだろう。

このような経済的な危機を未然に防ぐために、日銀は常に経済状況を監視し、必要に応じて金融政策を打ち出し対応してくれる訳だ。

金融政策には、主に2つに分類されている。

  1. 金融緩和政策   (景気が悪い時に実施)
  2. 金融引き締め政策 (景気が良すぎる時に実施)

今回の量的金融緩和は、①の金融緩和政策に該当する。つまり、コロナショックによる経済的打撃から回復できるよう日銀がサポートしてくれている。

ようやく本題に入るが、この量的金融緩和とは何かというと、日銀が民間銀行から国債を大量に引き取ることで市場に出回る現金の総量を増やす政策である。

国債が大量に買い上げられる事で、市場の国債利回りは低下し、民間銀行は現金を日銀から受け取る。

民間銀行は低金利の預金や国債には魅力を感じず、少しでもリターンを獲得する為に、別の金融資産に注目し始めるだろう。

それは例えば、株式であったり不動産であったり、または会社に金利をつけてお金を貸すことも想定される。

このように量的緩和が行われることで、市場に出回るお金の総量が増えるので、経済活動が活発的になりやすい。

メリット

1. 金利低下

先程の説明でもあったように、量的緩和とは日銀による国債買い入れが活発的に行われることである。

これにより、国債価格は上昇し続け、結果的には利回り低下を引き起こす。

民間銀行は、国民から預かった大切な預金を比較的低リスクな国債に投資して、金利収入を得ているわけだが、利回りが落ちると国債を持っていても大して儲からない。

そこで、民間銀行は国債を売却する一方で、企業に利子を付けて資金を貸し付けたり、高利回りな社債やETFに投資する。

社会全体の金利が低下している状況下では、企業の銀行からの借り入れコストも比較的安く済むことが多いので、安く借りれるうちにできるだけ借りておこうと考える企業が増えていき、事業の拡大・売り上げの増加・給料のUP・消費の活発化・景気回復という流れに繋がると想定されている。

2. 円安によるデフレ脱却

量的緩和による紙幣大量発行は、需要と供給の観点からは、通貨の相対的価値の下落を招く。

それに加えて、金利もどんどん低下していく。こんな状況において、金利も付かず価値が低下し続ける日本円を欲しがる投資家はいないだろう。

その為、量的緩和は一般的にドル高・円安になりやすい。

円安になると、海外へ物を輸出する際に有利となり、売れ行きが好調となる。

日本はトヨタやユニクロなど、海外輸出企業が多いとされる為、海外での売り上げが伸びれば、企業の業績向上により給料もUPすると考えられる。

量的緩和が円安を引き起こし、円安が輸出企業を有利にし、そこを起点に給料がUPした労働者達による消費が高まることで、景気回復(デフレ脱却)が見込まれる。

デメリット

1. インフレ過熱

量的緩和の最大の懸念点である、インフレ過熱による経済の混乱は見過ごせない。

紙幣を大量に市場へ供給する行為は、必ずしも良い使われ方をするとは限らず、単に金稼ぎのツールとして利用される事も多々ある。

事業拡大や工場建設のような生産性向上に使われず、余ったお金を株式市場や不動産市場、あるいは投機として暗号資産市場に投じる動きが近年問題視されてきた。

これでは、株や土地、ビットコインが一方的に上昇し続け投資家は儲かる一方、貧困層にはその恩恵を受けられる機会などない。

むしろ土地価格が上がることで住宅費が高騰したり、コモディティ市場に資金が流入することで、生活必需品までもが高騰する可能性も大いにある。

そもそも量的緩和とは、紙幣を大量印刷するのだから、需要と供給の観点からお金の価値は下がり、対照的に物(資産)の価値は上がり続けるものである。

これにより、資産を有する富裕層はますますお金持ちになる一方で、貧困層はさらなる地獄を味わうことになりかねない。

本当に、量的緩和は景気回復の役に立つのだろうか?

コロナショックによる打撃を受けた後、日本政府は大規模な量的緩和を支持し、その影響もあり日本株は直近高値を大きく更新している。


日本の株価が高値更新し、景気回復をアピールする政府。

見せかけだけの好景気に惑わされてはいけない。

2. 出口戦略が重要

量的緩和を始める際は、政府・日銀があらかじめ達成すべき目標を決めておく。

例えば、インフレ率2%を上回る事であったり、失業率を5%以下にまで減少させるとか、雇用統計の結果が連続して好成績であるなど。

一般的には、これらの目標を達成した後は、量的緩和を終了する(これを、テーパリングと言う)必要がある。

先程の説明にもあったように、量的緩和は長く続けているとインフレが急速に過熱するリスクがあるからだ。

政府としても経済混乱を未然に防ぎたい為、どこかのタイミングで緩和縮小を発表しないといけない。

ここで問題なのが、いつ緩和縮小に踏み切るかである。

景気がそこまで回復していないのに、量的緩和が思ったほど効果を出せていない状況では、判断が難しくなる。

企業の売り上げもそこまで伸びず、また給料も伸びていない一方で、株高・不動産バブルが垣間見え始めると、日銀としては物価安定を名目に、緩和縮小を焦って切り出す可能性もある。

その結果、今まで量的緩和による余ったお金が株式市場に流入していたおかげで株高になっていたが、量的緩和が終わった途端、もう新しく市場に流入してくる資金は途絶える為、投資家は一斉に利益確定売りをし始める。

これにより、実体経済とはかけ離れたバブル相場は終焉を迎え、株価は一気に大暴落する。

株価が急落すると、株式会社は新たに資金調達をする際に不利となり、資金繰りが滞る会社も増加していく。

また、バブル相場の時に大金を投資していた個人投資家や機関投資家の中には、大損失を計上し自己破産する者も出てくるだろう。

このように、量的緩和によってイケイケな状況から、緩和縮小が突然発表されると、経済全体が一気に総悲観に切り替わり再び景気が悪化し始める懸念がある事に注意が必要だ。

我々、投資家にとってこの緩和縮小と言うテーマは、切っても切れない存在である。引き続き、注目しておこう。

まとめ

  • 量的緩和とは、日銀が紙幣を発行し、そのお金で国債を買い上げる金融政策である
  • 量的緩和により、金利が下がり企業の借り入れコストも下がりやすい
  • 紙幣大量発行により、日本円の相対的価値が下がる事で円安になりやすい
  • 長く量的緩和を続けると、インフレが進行し、経済が混乱する恐れがある
  • 出口戦略を間違えると、これまで続けた量的緩和の成果が無駄になりかねない

ファンダメンタルズ分析の最新記事