金利上昇、株価の先行きは暗い

ウクライナ侵攻に世間の注目が集まる中、軍事的な問題だけでなく、経済的な問題も注目されているのをご存じだろうか?

今回は、コロナショック直後から現在までの経済・政治・市場動向について振り返ってみたい。その上で、今起こっている問題とそれに対処する為の投資戦略を、短期目線と長期目線に分けて考えていくので、今後の取引に役立ててほしい。

さて、投資家であれば周知の事実であるが、米国を筆頭に世界中でインフレ(物価上昇)が加速し続けている。

3月、米国のCPIは8.5%と発表された事を受け、FRBは1度の利上げで0.5%、いや0.75%も視野に入れて議論する必要があると発言し、市場に動揺が走った。

政策金利が実際に何%引き上げられるのかは未確定だが、市場はどこまで金利が上がる事を織り込んでいるのだろうか?

それを知るには、株式投資家よりも賢明な債券投資家に聞くのが一番である。

下記は、2年物国債金利のチャートである。

御覧の通り、年初から短期金利は上昇を続け、一時2.8%近くまで上昇している事が分かる。

次に、長期金利のチャートを見てみよう。

長期金利も年初から上昇を続け、一時的に3%近くまで上昇している。

短期、長期、どちらも3%近くまで上昇しているという事は、年末までには政策金利はおよそ3%近くまでは引き上げられるだろうと予測している投資家が多い事を示している。

2022年に開催されるFOMCは、残り6回なので、単純計算だと1度の利上げで0.5%引き上げられる事になる。

これまで、低金利政策によって支えられてきた株式市場にとっては、上昇トレンドの柱が崩れつつある。

下記は、S&P500のチャートである。

2020年3月のコロナショックから右肩上がりだった相場が、今年に入ってからは明らかに失速しているのが分かるだろう。

直近の下落はウクライナ侵攻によるものと考えている投資家は多いが、株価下落の要因は金利引き上げによるものと筆者は考える。

なぜなら、株価とは将来に企業が稼ぐ利益の期待値を反映して決まるものであり、政策金利の上昇は、将来の景気を減速させる直接的な要因となり得るからである。

具体的に言うと、世の中で巨額の資金が集まりやすいのは不動産市場や自動車産業であるが、住宅や自動車を購入する際は、一般的にローンを組んで購入契約を結ぶもの。

ここで重要なのが、ローンを組む際、つまりお金を借りる場合は無利子であるケースは稀で、大半は金利を上乗せして返済する事になる点である。

住宅ローンの金利は政策金利をもとに決まる仕組みの為、これまでは低金利の恩恵を受けて住宅を購入する世帯も多く、自動車に関しても低金利のローンを組んで購入されやすかった。

また、直近では住宅価格の相場も上昇しており、前年同月比で20%近い上昇率を記録している。

住宅価格の高騰が続けば、賃貸料金にもいずれ反映される事になる為、将来の家賃支払い負担を考えるのであれば、今のうちにマイホームを買っておきたいと考えるのが普通だろう。

しかし、その動きが住宅価格のさらなる高騰を招き、不動産バブルを形成している要因である。

上昇率20%、このレベルの価格高騰がどれだけ異常な事なのかを理解するには、過去の不動産バブルを参考にするとよい。

2008年のリーマンショックが起こる前までの当時、住宅の売れ行きが好調で不動産バブルと言われており、これを支えとして株価も上昇トレンドを維持していた。

しかし、その当時でさえ、住宅価格上昇率は15%を超える事は無かったのである。

現在は2006年の最高値付近の14%を大きく超え、このまま上昇すれば20%をも突破していくだろう。

これほどの上昇を見せつけた理由はいくつかあるが、コロナ禍による建築士の人手不足や木材や金属などの資源価格の高騰、燃料代高騰による輸送費の値上げなど、そして最大の理由として驚異的なインフレが背景にある。

これまで何度も説明してきたように、米国のCPIは8.5%まで上昇してきており、ここ直近では前例のない物価の上がり方である。

米国は世界的に見ても経済格差が著しく、それがコロナ禍で勝ち組と負け組の業種を露呈させる結果となった。

テレワークが可能なIT企業などはコロナ禍でも問題なく業績を伸ばし、むしろ過去最高益を叩き出す企業も少なくない。

一方で接客業やサービス業は甚大な影響を受け、大幅な給料カットやリストラを宣告され失業した人も多い。

このような社会問題に対応すべく、米国政府は大規模な量的緩和と手厚い失業給付金を惜しまずばら撒く事で対応した。

一時的には助かった国民が多いのも事実で、バイデン政権の支持率回復にも役立った政策と言えるだろう。

しかし、コロナが始まってから2年以上の月日が流れた今、我々の想像を絶するレベルのインフレが、あの時のツケを払わせると言わんばかりに、人々の生活を苦しませている。

どうして、こうなる事を止められなかったのだろうか?

少し考えてみれば簡単に分かるはずである。コロナという緊急事態であったとは言え、誰も働かず物は製造されないにも関わらず、政府が印刷した紙幣を国民にばら撒いて好きに使わせれば、需要と供給の観点から需要過多に陥り、物価が上昇していく事は小学生にだって予測がつく。

だが皮肉にも、当時の国民の中に、コロナ禍で生活に困窮している国民へ一律給付金をもっとたくさん支給すべきだと声高に説く者の何と多い事か。

もちろん、今日という一日を生き延びるのも精一杯の状況である困窮者であれば、最低限度の生活が送れるだけの支援金は給付すべきだ。この点に対しては筆者も異論はない。

しかし、日本人で本当に生活が限界まで追い込まれている割合はそう多くはないだろう。

大してコロナ前と後で収入に変化がない労働者も多いのだから、くれぐれも日本経済を活性化させたいが為に、全国民一律給付金などという馬鹿げた政策だけは容認してはならない。

これは政治家が国民からの支持率を得る為だけで、一時的には得をしたような気分になるだろうが、最終的にはインフレ(物価上昇)という名の罰が返ってくる事になるのである。

そうなれば、給付された10万円などよりも遥かに高い負担を、インフレや増税といった形で支払う羽目になり、国民の為になるとは到底思えない。

幸い、日本では一律給付金は1度しか行われおらず、金額も一人当たり10万円と比較的少額で、また日本人は貯金志向が強い事も相まって、給付金を実際に利用する人は多くなかった。

まぁ、そのせいで麻生財務大臣が給付してやったのに誰も使わんから経済が回復しないと不満を漏らしていたのだが、インフレを引き起こすより遥かにマシである。

その反面、米国は3回もの一律給付金を実施し、合計35万円もの給付をしてきたのである。

人口が3億人を超える米国で一人35万円という数字は巨額で、日本人と違って貯金志向も強くはない。

生活に余裕のない人は、受け取った給付金をすぐにローン返済に充てるなどで消費に回す。

一方、富裕層や小金持ちの世帯は、コロナ禍なので外食や旅行もできず、特段使い道がある訳でもない。

そこで株式や貴金属やエネルギーなどのコモディティ、または別荘などを買う為に不動産投資も活発的に行っている。

さらに、金融政策としてFF金利はゼロ水準を彷徨っていたので、なおさら不動産に興味を寄せる人は多かったのだろう。

このように、コロナ禍なので景気そのものが良くなっている訳ではないが、政府が無から生み出した紙幣をばら撒くという奇妙な政策によって、見せかけの好景気が出来上がってしまった。

自動車や不動産がバカ売れするので、当然そういった企業は儲かるが、コロナ感染で通常営業とは行かず、部品が足りないだの、働き手が不足しているといった供給能力は落ちていた。

とはいっても、市場の雰囲気としてはコロナパンデミックで一時はどうなるかと焦っていたが、どうやら国の政策も無事に功を奏したようだし、順調に景気も良くなり経済も元に戻るだろうと考え始めた。

その為、株式市場もコロナショックを最後の安値に、上昇トレンドをしばらく維持していたのだ。

実際、筆者もコロナ禍では随分と儲けさせてもらったし、資産を数倍にまで増やす事に成功した。

また、この頃から仮想通貨取引所のキャンペーンや、証券会社のCMが良く流れていたのを読者もご存じの事と思う。

米国や欧州で給付金を貰った裕福な家庭では、これを機に投資へ挑戦するケースも相次ぎ、ロビンフッド現象が話題になった時期でもある。

しばらく上昇一辺倒だった株価を見て、経験の浅い素人は、これで自信を付けて貯金している他のお金にまで手を出した投資家も多いはず。

これも株価上昇を支えた一つの要因であるとも考えられるだろう。

しかし、先ほども説明した通り、今の株式市場は実に中身のないうわべだけの上昇であり、この祭りがそう遠くない日に終わりを告げる事は、プロの投資家であれば容易に想像がつく。

事実、インフレを対処する為に政策金利を引き上げるとFRBが発表したことで、株価はさっそく暗雲が立ち込めている。

明らかに展開が変わってきている事が痛いほど伝わってくるのは筆者だけだろうか?

政策金利が引きあがると、ローン返済金利も連動して上がり、車や家が売れなくなる。

そこを起点として、金の巡りが悪くなると、物が売れなくなる為、様々な企業の業績も下がり、給料も下がる為、購買意欲も下がっていく。

こうして、インフレ(物価上昇)は収まっていくという理屈ではあり、景気が悪くなる事を見越して株価は先行して下がっている訳である。

ここから得られる戦略候補としては、株安シナリオを主軸とした株の空売り・現物の売却である。

最高値から割と安くなってきているから、この辺で買おうと考える人も多いかもしれないが、筆者は真逆の意見を持つ。

これから起こると思われる暴落は、リーマンショックを大きく超えると予測しており、歴史の教科書に載るような大不況が訪れると考える。

つまり、今の株価下落は暴落などとは呼べず、終わりの始まりと言ったところであり、本当の下落はまだまだこれからである。

一般的に、株価が暴落する際の順番としては、新興株→日本株やEU→最後に米国株の傾向がある。

最近では、米国株インデックスファンドを長期積み立て投資するのが主流の為、大きな下落が起きるにはそれなりの時間がかかる。

その為、株の空売りとして候補に挙げるべきは、新興株や日本株を検討したいと思う。

空売りする場合、個別株はリスクが高く上級者でなければ失敗しやすいので、ETFを選択するのが無難だろう。

他にも、利上げの影響を受けやすいのが貴金属やビットコインなどのコモディティ銘柄である。

まずは、ゴールドから見ていこう。

量的緩和やインフレ懸念により、コロナショックの安値から上昇してきたものの、$2050のレジスタンスを超える事無く、再び続落し始めているのが分かる。

これは単純に、配当が付かない金属よりも、今後は政策金利が引き上げられる米ドルや米国債へと資金が流れている証拠である。

その為、金利上昇懸念が続く限り、短期的にゴールドを強気で買いに行ける状況とは言えないだろう。

次に、ビットコインについても見ておこう。

ゴールドと比較してみると、ビットコインのほうが変動率が高く、株などのリスク資産と連動して動きやすい相関関係は依然として払拭できていない。

ウクライナでの戦争が勃発したり、米国でインフレが加速しているので、ビットコイン支持者の立場から見れば、非常にガッカリする展開であろう。

ビットコインもゴールド同様、利上げの影響を受けるので大幅上昇はしばらく見込めないと思われ、現物を買い仕込むにはまだ早いと考える。

他のコモディティ銘柄として、シルバー、プラチナ、金鉱株などは最高値から割安水準に位置しているので、現物の買い仕込み候補として挙げられる。

食糧危機や水不足が将来的に深刻になると言われている以上、これらに関連する企業の株を長期保有するのもアリだろう。

しかし、農作物の現物は既に最高値付近に達した銘柄が多く、ここから買いに行くのは控えたほうが良い。

ここまでの話をまとめると、金融引き締めと利上げにより短期的には、株もコモディティも下落しやすいので、保有し続ける銘柄を十分に絞った上で、下落に備えた空売りポジションを構築しておくのが、短期の投資戦略である。

長期的な投資戦略については、短期とは真逆の戦略で、インフレ第二波への備えが今後のテーマになると筆者は考える。

と言うのも、本当にFRBがインフレを上手く抑えられるのか、懐疑的に思っているプロの投資家が多いのだ。

下記のチャートを見てほしい。

赤色が米国のインフレ率、青色が米国債10年利回りを示している。

これを見る限りだと、債券利回りが3%以下なのに対し、インフレは8.5%まで上昇しており、3倍近い差が開かれている。

また、現時点でのFF金利は未だ0.25%である事を考えてみても、現在の金利水準はインフレ率に対し非常に緩和的であり、本気でインフレを解決するにはより高い利上げを強行するしかない。

過度な利上げは市場に衝撃を与え、株価クラッシュを引き起こす可能性も否めない。

これはまさに2018年に起きた世界同時株安の時と似たような雰囲気であり、状況は今のほうが遥かに深刻である。

プロの投資家が量的緩和と給付金ばら撒き政策はインフレを引き起こすと警鐘を鳴らしてきたが、相も変わらずパルエル議長は「インフレは一時的だ」と一貫して発言してきた。

だが無情にもインフレは上昇を続け、当時のターゲットであった2%を大きく超え、今では8.5%である。

これが会社の重役であれば、責任を取らされて辞任しているところだが、政治家の得意技である責任転嫁によって、またしても言い逃れを続けているようだ。

ウクライナ侵攻が起こったことで、内心ホッとした政治家もいるのではないだろうか?

本当は自分達が立案した政策がインフレを招いた事だが、ウクライナ侵攻のせいにすればよいのだから、都合のいい口実が出来たと言えるだろう。

それはさておき、2018年の株安は、金利の引き上げによって市場を驚かせた事を起因とするもので、パウエル議長にとっては苦い経験である。

インフレの兆しが見えてもなお、頑なに「インフレは一時的である」と言い放った背景には、そのような過去があるからだろう。

とはいえ、現在起こっているインフレは過去の中でも群を抜いて重大な局面にきており、これ以上インフレを放置し続けると米国経済が立ち直れないレベルの混乱が起きてしまう。

これこそが、ハイパーインフレと呼ばれる破滅への入り口であり、米国の覇権が中国に奪われる分岐点になると予測する。

このような結末を避ける為にも、米国経済の安定、つまりインフレを波風立てず、安全に着地させる方法を模索する必要がある。

しかし、残念だがインフレを食い止める為には、現状としてはより強い利上げを断行するほかなく、これは株式市場に大きな下落圧力を生むことになる。

利上げにより、安全な米国債の利回りが3%より高く推移していく事と、わざわざ倒産リスクを取ってまで株式投資を継続する人はいないからだ。ちなみに、S&P500の配当利回りは1.4%程度である。

つまり、株価が大暴落するシナリオは不可避であり、株価暴落時は企業の資金繰りが悪化したり、株を保有していた個人投資家が大損失を受けるなど、経済全体で消費活動が低迷していくだろう。

これが大不況を招き、大勢の失業者が出る事で政治家の支持率も低下し、米国内では不満を抱いた人々によるデモや暴動が多発する可能性も高い。

それに耐えかねた政治家がFRBに金融緩和を指示し、インフレを完璧に解決する前に、再び利下げ・量的緩和を再度実行する事になるのである。

ここが第二2章、米国経済の終わりの始まりであり、超インフレが今後の市場トレンドになる。

もはやFRBに、加速するインフレを食い止める能力は無いと、市場が見透かした時点で、世界中の投資家は米国の通貨と経済に対する信用に見切りをつけ、一斉に米ドルの空売りを行い始める。

すると、米ドル安が進行していく事で、さらに米国内のインフレは加速していき、もはや政府はインフレをコントロールする術を失うのである。

ここで面白いのが、経済は前回の利上げとコロナパンデミックの影響で痛んでおり、インフレが進んでも素直に金融引き締めに移行できない点である。

その為、米国民はインフレヘッジの為に、ゴールドやビットコイン、株式やコモディティなどの現物をメインにひたすら購入していくトレンドが形成される。

こうして、ブリッジウォーターの創設者レイ・ダリオが言うように、「米ドルは紙くず」となるのだ。

今は利上げ期待でドル高・円安相場となり、1ドル130円を超え、円で持っているのに恐怖を感じる投資家も多いかもしれないが、慌てなくてよいだろう。

このトレンドは短期的な動きにすぎず、そう遠くない将来に必ずトレンド転換が起こると筆者は予測している。

長期的な展望をまとめると、超インフレの始まり、ドル安、コモディティの無限上げ、以上である。

最後に一言付け加えさせていただくと、ビットコインの開発者サトシ・ナカモトは、中央集権的な政治体制を否定し、貨幣の運用でさえも非中央集権に移行させるべきだと説いている。

彼が何者で、今もご存命なのかは結局分からずじまいだが、米国がこのような結末になる事を想定した上で、馬鹿で利己主義な政治家共から貨幣の支配権を取り戻すためにビットコインを開発したと言うのだから、彼は尊敬に値する人物といっても過言ではないだろう。

筆者はシステムエンジニアの職業柄、投資の観点だけでなく、IT技術の面で見ても、ビットコインという暗号通貨は本当に面白い発想と仕組みだと感じている。

まだビットコインについて知らない人は、下記に解説記事のリンクを張っておくので、そちらも参考にしてもらいたい。

https://se-survive-investment.com/investment/cryptocurrency/brand/btc

 

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