恒大集団が経営破綻した場合の深刻さ

中国不動産大手、恒大集団のデフォルト懸念が最近話題となっているので、状況を整理しておきたいと思う。

 

中国のこれまでの驚異的な経済成長の要因の一つが、不動産バブルによるものと言われている。

不動産価値がずっと上昇してきたので、企業は自身が保有する土地や物件を担保にして、銀行から融資を受けられる。

借りたお金で事業を拡大し、生産性が向上し、売り上げが伸び、従業員へ支払う給料も上がっていく。

従業員は給料が上がる事に加え、自分がローンを組んでいる不動産価値そのものも上昇しているので、資産が膨らんでいく。

これからも不動産価格は上昇していくだろうと信じて疑わない中国人は、さらに別の物件もローン契約を結んでいく。

買っておけば、将来値上がりして必ず儲かると考えていたからだ。

しかし、ここにきて大きな問題となったのが、不動産の価値がバブル的に上昇しすぎて、家賃が支払えない貧困層が続出したこと。

中国のGDPは米国に次ぐ世界2位となったが、貧富の差は驚くほど深刻化しており、一人当たりのGDPで言うと日本よりも低い。

13億人以上の人口を抱える中国だが、実際に裕福な生活を送れているのは、全体の2割以下。全体の半分以上は貧困層である。

経済発展が日本よりも著しいはずの中国が、いまだに発展途上国の位置づけにあるのはその為だ。

中国共産党のトップ習近平主席は、格差是正の措置として、共同富裕というスローガンを掲げている。

これは金持ちから税金を回収し、貧困層に回すことで、全員で豊かな生活を目指そうとする政策である。

今まさに不動産市場にバブルが発生しており、家賃の支払いが厳しくなった貧困層達の不満がピークに達しており、習近平もこの事態を見過ごせなくなっている。

そこで当局は、銀行の融資に関する新たな規制を設けたことで、企業はこれまでのように借金をするのが難しくなってきた。

恒大集団は積極的に借金をして、とにかく事業を拡大させるスタンスを取ってきたので、借入が厳しくなった今、あっという間に資金繰りに行き詰った。

また借金をするのがが難しくなったことを受け、不動産市場に新規マネーが入らなくなる事を予測した投資家による不動産の投げ売りが加速。

これにより、恒大集団が銀行からの借り入れる際に担保としていた不動産価値も大幅低下。それに加え、これまで建設してきた不動産物件も割引しなければ売れなくなり、総利益も大きく低下している。

結果的に、恒大集団は30兆円もの負債を抱えたままデフォルト(債務不履行)に陥る可能性が高まってきている。

とはいえ、恒大集団には負債だけでなく莫大な資産も有している。その額は30兆円を超えているとも言われている。

しかし、その資産の内訳を見てみると、全資産のうち半分以上が建設途中の未完成な不動産であり、売却して現金化するのは難しい。

また、完成している不動産を売却して現金化して借金返済に回そうとする場合でも、不動産市場に大きな売り圧力がかかってしまい、結果的に自身が保有する不動産の価値まで下落してしまう為、どちらにせよ借金返済は不可能だろう。

よって、恒大集団が助かる道は、中国政府による救済がなければ必要不可欠となるのだが、ここでも問題がある。

それこそが、中国政府が掲げる共同富裕である。共同富裕は、金持ちから税金を取り、貧困層に回す政策だと先ほど説明した。

これにより、中国国民全員で豊かな生活を送ることを目指しており、経済格差を是正することで政治家の支持率を高める狙いもある。

このような政策がある以上、大企業である恒大集団を国の税金で救済しようとするなら、貧困層の国民からは金持ちを優遇するのはけしからんと激怒するだろう。

だからといって、このまま巨額の負債と大量の従業員を抱えている恒大集団を経営破綻させれば、今後の中国経済に大きなダメージを与えかねない。

本来であれば、恒大集団の破綻を阻止するべきなのだが、政治的な不都合が多くあるため、中国政府は恒大集団を見捨てる可能性が高いと言える。

 

それでは、恒大集団が実際にデフォルトした場合は、市場にどれくらいの影響が出るのだろうか?

 

これは豆知識だが、日本人は預金信仰、アメリカ人は株式信仰、中国人は不動産信仰と言われている。

多くのアメリカ人はS&P500に投資し続けており、右肩上がりの株価上昇の恩恵を受けて、老後の資産形成の柱となっている。
一方中国人は、不動産への投資を続けており、不動産価格は日本のバブル時代と同じように上昇し続けてきた為、老後の資産形成の支えである。

このような背景がある事から、株価が大暴落するような事になれば、資産の大半を株式に投資しているアメリカ国民にとっては老後の生活資金を失うことになる。

よって、アメリカの政治家は株価を暴落させれば国民からの反感を買い、自身の支持率低下へと繋がることを恐れ、FRBに対して量的緩和を要求させるだろう。

不動産市場が暴落すれば、資産の大半を不動産物件に投資してきた中国人にとっては、老後の資金が枯渇する事になり、冷静さを失う事になる。

当然、自身が保有する不動産価値が大幅に目減りすれば、中国人の消費活動(爆買い)が落ちる事が想定される。

このように、国によって信仰する金融商品が異なる為、中国人が保有する不動産価値暴落がどれだけのインパクトがあるのかを、アメリカ人や日本人は理解していない。

アメリカ人が就職してすぐに株式投資をしてきたように、中国人は就職してすぐにローンを組んで不動産を買ってきた。将来、必ず値上がりすると信じていたからだ。

人生をかけて投資してきた不動産市場が、突然壊れ始めたことに気づいた中国人が、これからどのような行動を取るのか、引き続き注目していきたい。

なお、リーマン・ブラザーズが経営破綻してから市場に影響が現れたのは、1年経過してからだった事にも留意しておきたい。

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