大口取引戦略を見抜く重要性

あなたは、チャート分析をする際、大口投資家の動向を観察しているだろうか?

ただ価格の値動きを見たり、チャートパターンを根拠にエントリーしている人には、もっと相場に対する深い考察が必要である事を知っておいてほしい。

 

チャートには、ローソク足が表示されており、価格の変動が記録されている。

しかし、それはあくまで最終的な結果に過ぎない。

 

その結果に至るまでには、世界中の投資家達の様々な思惑が働いており、それぞれの投資家の取引戦略などの影響も多分に影響を受けたことが推測される。

その為、値動きだけを見つめるのではなく、「なぜそのような値動きをしたのか?」これを考える力を身に着けることが非常に大切だ。

 

これらの観点からも、大口の取引戦略をチャートから読み取る重要性は高いと言える。

なぜなら、莫大な資金を有する大口投資家は、相場に絶大な影響を与えるからだ。

 

我々のような小口投資家は、大口の取引戦略に素直に追随していくほうが、より安定的に利益を得られるに違いない。

 

今回の記事では、大口の取引戦略の概要について解説していく。

ワイコフ理論とは?

大口の取引戦略を見抜くには、ワイコフ理論について理解しておくのが重要だ。

 

ワイコフ理論とは、19世紀後半に、リチャード・ワイコフ氏が提唱した相場理論である。

彼は、アメリカの株式投資家で、金融投資コンサルタントを務めていた経歴もある。

 

前回の記事で解説したダウ理論の提唱者、チャールズ・ダウ氏とも並ぶほど、ワイコフ氏の評価は世界的にも高い。

ワイコフ理論は、ダウ理論と同様に、株式市場を対象として作られたものだが、FXや暗号資産市場でも十分に役立つ理論とされている。

ワイコフ理論の3つの法則

一見すると、相場はランダムに動いているようで、法則性が何もないように思える。

しかし、ワイコフ理論は、以下の3つの法則に基づいて相場が動くと考えている。

  1. 需要と供給
  2. 行動と結果
  3. 原因と結果


それでは、この3つのルールを、順番に解説していこう。

<①需要と供給>

需要(買い注文)が、供給(売り注文)よりも多ければ、価格は上昇していく。

需要(買い注文)が、供給(売り注文)よりも少なければ、価格は下落していく。

需要と供給が等しくなれば、価格はレンジ相場を形成し、変動幅が小さくなる。

<②行動と結果>

投資家が行動(売買)すると、結果(値動き)が生まれる。

つまり、価格変動という結果の裏には、必ず何かしらの行動があり、思惑がある。

 

誰かが買うから価格は上昇するし、誰かが売るから価格は下落するもの。

しかし、行動(売買)する投資家が少なければ、結果(値動き)への影響も小さいまま。

 

大きな結果(値動き)に繋がるかどうかは、多くの行動(売買)があったかどうかを確認すべきだ。

それを確認するには、出来高(ボリューム)に注目しよう。

<③原因と結果>

原因はレンジ相場での期間の長さを指し、結果はトレンドの上昇幅を指す。

基本的に、レンジ相場は長いほど、レンジブレイク時の変動幅も長くなる傾向がある。

 

なぜなら、それだけ長期間、買いと売りが戦い続けた結果、どちらかが勝利しブレイクした事になるので、負けた方は完敗したと認め、一気にポジションを清算し切り替えるからだ。


このような原因(理由)があるからこそ、全体の方向性が決まった場合は、とてつもないスピードでブレイク方向へと突き進んでいく。

 

これに関しても、原因(誰かの思惑)があるから、結果(値動き)が生まれる法則と似ている。

 

ここまで、相場変動の3つのルールについて見てきた。

正直どれも当たり前の話だが、大事なのは値動きに注目するだけではなく、その値動きに至るまでの投資家の心理を読み取る事こそが求められているのではないだろうか?

ワイコフの相場サイクル

ようやく本題に入るが、「ワイコフの相場サイクル」では、大口の買い仕込みや売り抜けを行うポイントを把握する為の、相場サイクルについて解説している。

ワイコフの相場サイクルでは、主に4つのフェーズに区分されている。

  1. アキュムレーション:買い仕込みフェーズ
  2. マークアップ:価格を釣り上げるフェーズ
  3. ディストリビューション:利確売りするフェーズ
  4. マークダウン:価格を叩き落すフェーズ

下記の図は、大口の取引戦略の大まかな構図を示している。

大口は、安値圏で買い占め、高値圏で売り抜けている。

だが、素人の小口投資家は、大口とは真逆の取引をしてしまうケースが非常に多い。

 

これがいわゆる、「買ったら下がる、売ったら上がる」なのだろう。

この基本的な相場サイクルを知っておかないと、いつまでたっても相場に振り回される事になると言う訳だ。

とても大切な事なので、一つずつ詳しく解説しておこう。

<①:アキュムレーション>:買い仕込みフェーズ

アキュムレーションとは、大口が底値圏で、現物を安く大量に買い仕込むフェーズである。

 

株式や暗号資産などの銘柄は相対取引であり、買いたい数量分の売りがなければ買うことはできない。

自分がビットコインを買う際は、誰かが売ってくれないと、いつまでたっても買い注文は通らないまま。

 

特に、莫大な資金を運用している大口投資家は、一度に成行買い注文をしてしまうと、一気に価格が上昇してしまうので、安く買い仕込む事に失敗しやすいだろう。

その為、他の投資家に気づかれないように、少しずつ買い仕込んでいくことで、急な価格上昇を防いでいく。

 

この際の特徴としては、これまで価格が下がり続けていたのに、下げ止まり底値圏でレンジ形成をし始めたら、それは大口が買い仕込み始めている可能性を疑おう。

ここで注意すべきなのが、大口はその莫大な運用資金を活用して、レンジ上限・下限を突破させるような動きを仕掛けてくるケースが多い事だ。

 

例えば、底値圏でのレンジ形成から、レンジ上限をブレイクさせたとしよう。

多くの投資家は、順張りエントリーを主軸としており、レンジブレイク時にその方向に合わせた買い指値注文を置いているだろう。

 

今回は、レンジ上限ブレイクなので、買い指値注文が通った事になる。

しかし、大口投資家は保有している量の半分近くを売り浴びせる事で、再度レンジ圏内に引き戻す。

 

そして、このタイミングでネガティブニュースなどを連発で発信していく。

下記の例は、これまでよく見てきたニュースである。

  • 某取引所がハッキングされたとか
  • 某国が暗号資産取引の規制を検討中
  • 世界的著名人が、ビットコインは○○年以内に無価値になるだろうと発言

 

このような話を真に受けた、知識が乏しい素人は強い恐怖感を抱くだろう。

これにより、レンジ上限付近で購入してしまった投資家はパニックに陥り、一気に投げ売りをするだろう。

このような投げ売りを、セリングクライマックスと言う。

 

セリングクライマックスにより、一時的にレンジ下限を下抜け最安値を着ける。この安値付近をスプリングと呼ぶ。

しかし、大口はそのタイミングを逃さずに、安い価格帯で大量に買いを仕込んでいくので、価格はすぐにレンジ圏内に引き戻される。

 

もしも、底値圏のレンジ相場下限を一時的に下抜けたものの、すぐにレンジ圏内に戻ってきたら、大口の買い仕込みがある程度終わっている可能性が高いと思ったほうがいい。

<②マークアップ>:価格を釣り上げるフェーズ

マークアップとは、大口が価格を大きく釣り上げるフェーズである。

 

アキュムレーション段階で、既に大口は大量に買い仕込む事に成功している。

そして、レンジ相場での激しい値動きに振り回された素人達は、保有している現物を投げ売りしており、ほとんど保有していないケースが想定される。

 

その為、売り圧力がかなり低い状態で、大口の莫大な資金力を活かし、大規模なロング(買い注文)を仕掛けていく。

この際、一瞬で上げるというよりかは、最初は徐々に上昇していく傾向が多い。

なぜなら、ここからは上昇トレンドに転換していくと素人達に思わせて、あえて買わせるチャンスを与える事で、より力強い上昇となるからだ。

<③:ディストリビューション>:利確売りフェーズ

ディストリビューションとは、大口が利確売りをし始めるフェーズである。

 

大量に買い仕込んだ現物を、できるだけ高く売り抜ける為には、他の投資家にバレないよう、徐々に売る必要がある。

彼らは運用資金が大きすぎる為、成行で売り注文を出すと、一気に価格が暴落してしまい、高く売り抜ける事に失敗してしまう。

 

この際の特徴としては、これまで価格が上がり続けていたのに、上げ止まり高値圏でレンジ形成をし始めたら、それは大口が売り仕込み始めている可能性を疑おう。

ここで注意すべきなのが、大口はその莫大な運用資金を活用して、レンジ上限・下限を突破させるような動きを仕掛けてくるケースが多い事だ。

 

例えば、高値圏でのレンジ形成から、レンジ下限をブレイクさせたとしよう。

多くの投資家は、順張りエントリーを主軸としており、レンジブレイク時にその方向に合わせた指値注文を置いているだろう。

 

今回は、レン下限ブレイクなので、売り指値注文が通った事になる。

しかし、大口投資家は大き目の買い注文を出す事で、再度レンジ圏内に引き戻す。

 

そして、このタイミングでポジティブニュースなどを連発して発信していく。

下記の例は、これまでよく見てきたニュースである。

  • ビットコインは、年末までに1000万円にまで到達か?
  • 著名人が、ビットコインは将来1億円になると予測
  • ビットコインETFが承認される可能性が高まっている

このような話を真に受けた、素人は強い期待感を抱いて、よく考えずに買う傾向がある。

これにより、レンジ下限付近で売却してしまった投資家は焦って買い出し、一気にレンジ上限をブレイクする。

このポイントを、スプリングと呼ぶ。

 

しかし、大口はそのタイミングを逃さずに、高い価格帯で大量に売っているので、価格はすぐにレンジ圏内に引き戻される。

もしも、高値圏のレンジ相場上限を一時的に上抜けたものの、すぐにレンジ圏内に戻ってきたら、大口の利確売りがある程度終わっている可能性が高いと思ったほうがいい。

<③マークダウン>:価格を叩き落すフェーズ

マークダウンとは、大口が価格を大きく叩き落すフェーズである。

 

ディストリビューション段階で、既に大口は利確売りする事に成功している。

そして、レンジ相場での激しい値動きに振り回された素人達は、保有している現物をまだ売っておらず、高値掴みしている傾向がある。

 

そこで、大口の莫大な資金力を活かし、大規模なショート(売り注文)を仕掛けていく。

価格急落に伴い、大きな含み損を抱えた素人達は、耐えきれなくなった時点で投げ売りをし始めるだろう。

それにより、価格は強い下落スピードを維持したまま、続落しやすくなる。

実際のチャート

ここからは、実際に「ワイコフの相場サイクル」に当てはまるチャートを紹介しよう。

BTC/USD 1時間足 $20,000ブレイク前

オレンジ色の四角で、レンジ相場を形成しているのが分かるだろう。

レンジ圏内では、方向感のない値動きとなっており、ここでの取引は優位性が低いと言える。

 

そして、アキュムレーション段階の解説でもしたように、一時的にレンジ下限をブレイクするものの、すぐに買い上げられてレンジ圏内に戻ってきているのが分かる。

この安値付近がスプリングであり、この時点で、大口の買い仕込みは終了しているものと思われる。

 

その後、レンジ上限をやや上抜けるものの、騙しとなり下落してきて、レンジ下限にタッチした直後から、強い上昇に転じている。

恐らく、素人達はレンジ相場でかなり振り回されているだろう。その一方で、大口は安く大量に買い仕込む事に成功しており、次のマークアップで、大きな含み益を手にしている。

 

もう一つ、実際の事例を挙げておこう。

BTC/USD 1時間足 $24000ブレイク前

先程に紹介した、$20000ブレイクしたマークアップ直後のチャートである。

 

理論通りであれば、ここからはディストリビューションに入り、利確売りが始まるはずだが、今回は再度アキュムレーションが行われる格好となった。

このように、相場では理論通りに動くとは限らない事を覚えておこう。

 

大口が、まだまだ価格は上がるはずだと考えているのであれば、これ以降も買い仕込みは続いていくだろう。

その為、理論通りにいくと過信するのではなく、一つのシナリオを立てる程度に留めておくのが無難だろう。

 

下記のチャートは、アキュムレーションが続くと仮定した場合のイメージである。

上記のチャートのように、今後の値動きのイメージを実際にチャートに描いてみて、複数のシナリオを立てるようにする事がポイント。

 

絶対にシナリオ通りに動く事など、ありえない!

だからこそ、できる限りの想定外を減らす為に、複数のシナリオを今のうちにイメージしておく事が何より大切だ。

hiroの見解

心理今回は、大口の取引戦略をチャートから読み取る重要性について解説してきた。

ここで解説してきた内容は、どれも重要な事ばかり。

 

どの相場でも、最も影響力が大きいのは、莫大な資金を動かす機関投資家などの大口だ。

その為、大口の動向を確認する事は、順張りエントリーにおいても非常に役に立つ。

 

これから取引する際は、チャートの分析だけでなく、取引をしている他の投資家の心理状態を考察する癖を着けていこう。

世界中の投資家達の心理を正確に読み取る事が出来るようになれば、将来予測の精度も飛躍的に高まるだろう。

なぜなら、相場とは大衆心理の集合体の結果だからだ。

まとめ

  • 相場には、主に4つのサイクルに分類される
  • アキュムレーション段階:大口の買い仕込み
  • マークアップ段階:価格の釣り上げ
  • ディストリビューション段階:大口の売り抜け
  • マークダウン段階:価格を叩き落す
  • 大衆心理を読み取ることが、将来予測の精度向上に繋がる

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